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第一部 幕間 とある盗賊の終焉

「へへ、俺も運が回ってきたってとこか?」


 俺の名前はアズ・カバン。

 しがない盗賊……ごほん、冒険者だ。

 最近は本業が中々上手くいってなかったんだが、今日はツイてる。

 俺の視線の先、街道から外れた林の中にはぽっかりと口をあけた洞穴。

 間違いねぇ、ダンジョンだ。それも出来立て、もしくは繋がったばかりの。

 これが普通の洞穴なら、入口から濃い魔力を感じる訳がない。

 地上と違って、ダンジョン内は魔力に満ちた空間だからな。


 ダンジョンは踏破されれば消えてしまう。

 だが、踏破者には迷宮核っつーでけぇ宝が与えられる。

 ダンジョンの規模によってその価値は変わるが、最低ランクでも一生暮らしてお釣りがくる財産を築けるのは間違いねぇ。

 一瞬仲間を呼ぼうかと思ったが、まずは様子見に入ってからでも遅くはないだろうさ。

 へへっ、もし生成されたてのダンジョンなら十分俺でも踏破できるチャンスはある……

 やべーな。涎が止まらねぇ。幸い鞄には松明や短剣、保存食、水と、一通りの備えはある、これはいくしかねーだろぉよ。

 




「一層目は草原、か。出てくる魔物は雑魚も雑魚のスライムにお犬様たぁ、なめくさってやがる」


 と、早速スライムのお出ましだ!

 だがそんなどんくせぇ動きで俺を溶かすなんざ、夢のまた夢だろうよ。

 まるでカタツムリのような動きを嘲笑いながら、丸見えの核をショートソードで差し貫いてやる。

 長時間触れていれば、金属だろうと溶かしくれやがるが、一分やそこらでどうとなるものでもない。

 あっさりスライムは弾けるように拡散し、そのまま地面に溶け消えやがる。

 

 その奥から走り寄ってきたお犬様も、すれ違い様撫で斬りしてやればあっさり致命傷だ。

 これでも冒険者の端くれ、最下位の魔物程度にやられるわけがねぇ。

 きゃんきゃん喚く灰色の毛並みの大型犬、その土手っ腹をブーツで蹴飛ばし素早く剣をひと振り。

 呆気無く柔らかな腹部を斬り割いたショートソードの血と油を、使ってない布で拭い落とす。


 周囲を見渡すが、他に魔物らしい気配はないようだ。

 それにしてもダンジョンてやつぁ不思議だ。

 俺は確かに地上から地下へと向かった筈だが、この草原には“太陽”がありやがる。

 どっかで聞いた、ダンジョンは各層事で別次元に繋がってるとかいう与太話も、案外本当なのかもしれねぇ。

 

「にしても魔物の数が少ないな。こいつぁやっぱ生成し立てのダンジョンか?」


 それならやっぱ今日の俺は最高にツイてるんだろう。

 生成し立てなら深くても三層程度が限界。

 出現する魔物も高が知れている。

 つまり、ダンジョンの主さえどうにかしちまえば、巨万の富が俺様のモノってことさ!


 逸る心臓の音を耳に、十分程歩いて見つけた人工的な石の螺旋階段を降りていく。

 各層毎に設置されているこの階段ってのも不思議なやつで、魔物が出現しない。

 セーフティエリアとか言われることもあり、基本的な休憩はここで行われる。

 まぁ、今の俺には無用な訳だから、さっさと降りて次の層に入る。


 石の扉を押し開けば、今までとは違う、鬱蒼とした密林が目の前に広がった。

 これだからダンジョンてやつぁ面白い。

 氷が蔓延る雪原かと思えば、次の層はマグマが煮えたぎる火山なんてこともある。

 環境差が激しければ、それだけで踏破難易度あげやがるっつー寸法だ。

 こうして草原から密林なんてのはまだまだお優しい方だろう……


「つっても、こうして隠れる場所があるってぇのは、厄介なんだがよ!」


 手近に生えた巨木、その裏から飛び出した緑色の小人を全力で袈裟懸けに斬り払う。

 一瞬で絶命したこのゴブリンてやつぁ、下手に生かすと仲間を呼ぶからタチが悪い。

 

「やっぱ未踏破かつ生成し立てなのはこりゃもう確定だな」


 ダンジョンたぁ言え、人の出入りがそれなりなら、こうした密林系の層は獣道が出来るもんだ。

 それがここにはないんだから、つまりはそういうことなんだろ。

 上と違い、じっとりと蒸し暑く、汗が滲み革のアーマーと肌着が蒸れ始めるのが不快だが、我慢するしかねぇ。

 砂漠じゃないだけ随分とマシだろうさ。

 

「っと! 油断大敵ってなぁ!!」


 がさりと藪から飛び出したお犬様を横に避け、すくい上げるような一撃で胴を斬り払う。

 野犬と変わらない強度じゃ、曲りなりにも鉄製のショートソードは防げねーわな。

 地面に広がる赤を横目に、臭いに釣られて他の魔物が集まる前にこの場を後にする。




 

「シッ!! ハァッ!!」


 不味いな、少々余裕がなくなってきやがった……

 今斬り捨てたゴブリンで四体目、途中一匹を逃したせいで、急速に他のやつらが集まってきやがった。

 ジンジンと痛む太ももの傷だが、幸い軽傷だ。

 さっきのゴブリンの持っていた錆びた剣に毒が塗ってあれば別だが、そいつぁ心配のしすぎだろ。

 一息だけ付き、バックから真新しい布を取り出し、傷口をやや強めに縛っとく。

 回復魔法なんて上等なもんは使えねーんだから、しょうがねぇ。


「ギャッ! ギャギャ!!」

「チッ、休憩してる暇はねぇな!!」


 巨木の影から現れた一体のゴブリンとグレイハウンド。

 お犬様の噛み付きを一歩下がり回避し、素早く前突きで目を潰す。

 この辺りは木の密集度合いが高く、大ぶりの一撃は出せそうにない。

 粗末な棍棒を振り回すゴブリンの一撃を冷静に見極め、範囲を狭めて素早く剣を振るう。

 肉と骨を断つ感触が手首に伝わるのと同時、右太ももに鋭い痛みがはしった。

 クソッ! さっと傷口に視線をやれば一本の矢が突き立っている。

 慌てて苔むした巨木に身を寄せれば、間一髪カッと幹に矢が突き立つ音が聞こえてきやがった。


「はぁ……はぁ……やっぱ一度引き上げて、仲間呼ぶか。欲をかくのはいけねぇな」


 俺は慎重がウリな冒険者だから、引き時ってのは心得てるつもりだ。

 まぁ、この様子なら後一人か二人も居れば、十分だろう。

 そうほっと息を吐いて気を緩めたのがいけなかった。


「……アっ?」


 トスッと、俺の首からやけに奇妙な音が聞こえた。

 一体何がと口しようとして、ごぼごぼと喉から液体がこぼれ落ちていく。

 視線を下げれば真っ直ぐな何かが俺の喉元から生えているのが見える。

 なんだこれは? 俺はこんな洒落たものを身につけた覚えはねぇんだがな……


 意識がぼぉーとしてきやがった、前方の倒木で一体のゴブリンが弓矢を片手に小躍りしてやがる。

 癪に触る野郎だ、斬り捨ててやるぞと歩き出そうとするも、ずるりと身体から力が抜け、そのまま地面に倒れ込んじまう。

 そこでようやく俺は今危険な状態なんだと気づく。

 とうとう視界まで霞み始めた瞬間、目の前には大口をあけたお犬様が――――





 チンケな盗賊の末路なんざ、こんなもんか。

 それが最後に浮かんだ俺の言葉だった。



次は16時に投稿。

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