整地されたフィールド~どこから来るのかその自信
「おい、本当にやる気か?」
サッカーゴールの近くにおいて、靴紐をぎゅっと結び直す風藤に俺は心配そうに問いかける。
「あったりまえよ! このまま帰ったら女が廃るわ! 見せてやるわよ、あいつらに!」
靴紐をしっかりと結び終えた風藤は、立ち上がって足元にあったボールを運びながら、ハーフウェイラインまで持っていく。こうなっては、もう誰にも風藤を止めることはできそうにない。
「ねえ、木城くん。いいの?」
制服姿から半袖半ズボンという、吸水性の良さそうな練習着に変わった沖田が、俺のそばまで来て小さな声で訊いてきた。
聞いたところ、沖田は今日からサッカー部に体験入部をするらしく、ついさっき着替え終わったばかりみたいで、事情については何も知らなかった。
「さあな、あいつはたまに、突拍子も無いことするからな。……けど、おもしれえもんが見られるかもしれないぜ」
今にも一触即発しそうな状態であるにも関わらず、俺はそう言っていた。
「……木城くん、顔がにやけているよ?」
沖田が俺の顔を指さす。そう、俺は今から始まる勝負、「風藤対サッカー部員五人」を、楽しみにしていた。
風藤の宣言に、スポーツ刈りの男、遠山……先輩は意外なことに、その申し出を受け入れた。沖田に聞いたところ、やはり遠山先輩はキャプテンだった。
遠山先輩は風藤に勝負内容はどうするかと訊いた。風藤は不敵な笑みを浮かべ、「あたし一人であんたらサッカー部員を五人抜いてやるわ!」と右手を「パー」の形にして、風藤は自信満々に宣言した。
この明らかに、サッカー部員を舐めたような発言をしたにも関わらず、遠山先輩は「いいだろう」と了承した。その目は本気であった……。
そして遠山先輩は、キャプテン権限をフルに発揮して、サッカー部員の中から適当? に四人を選び出した。遠山先輩は「本気でやれ」と四人に発破をかけた。遠山先輩は、グローブをつけ、キーパーの位置に回った。
「またせたわね!」
すでに準備を終え、位置に着いていた五人に対して、風藤はボールを左足で踏み、腕を組み偉そうにふんぞり返る。
いよいよ、始まるのか……。よく見ると、グラウンドの外にはギャラリーが集まっていた。その中には、いくらか見覚えのある生徒もいた。
「盛況だねえ!」
ニコニコする沖田。饒舌の割にはどこか掴めないところがある奴だ。俺は沖田から目を離し、風藤へと向ける。
「よっし、始めるわよ!」
高らかに宣言して、風藤はボールちょんと前に蹴り出した。
「待て!」
と思ったら、ゴール前から遠山先輩は風藤を呼び止めた。
「なによ! こっちはアドレイションが爆発しそうなんだから!」
「崇拝」を爆発させてどうする。言い間違えにしてもひどすぎる。というかなんでアドレナリンを知らずにアドレイションなんて言葉を知っているんだ?(俺もだけど)
「そんな格好でやるつもりか!」
遠山先輩は自分の服の袖を掴み、風藤に自分の服を見てみろと指示する。今さら気づいた。風藤は、制服のままだった。
「負けたときの言い訳を今から作ってんのか?」
「――そうじゃないわよ! ……ちょっと待って、よいっしょ!」
すると風藤、おもむろにスカートのホックを外し始めた。
「ちょっ!」
風藤の突拍子もない行動に、俺を含み、みんな戸惑いの顔になった。それを無視し、風藤はスカートするりと地面に落とした。
「これで文句ないでしょ!」
恥ずかしさから俺は一瞬目を逸らした。だがスカートの下から見えたのは、別にその……そういったものではなかった。風藤は、スカートの下に青の短パンを履いていたのだ。
風藤はシャツのボタンを二つほど外し、腕をまくる。そしてスカートを掴み、後ろに放り投げる。
スカートは風に乗り、予想以上の距離を飛び、コート外にいる俺の頭上まで飛んできた。
「あぷっ」
俺の顔に、スカートがかかった。外にいた観客がわっと笑ったのが聞こえてきた。
「行くわよっ!」
――それが勝負の合図といわんばかりに、今度こそ風藤は、ボールを前に蹴り出し、現役男子サッカー部員五人との勝負を始めた。
俺はスカートを顔から取り、風藤のドリブル姿を追う。
まあ、一人抜けたら上等だろう。正直俺は、風藤が勝負に勝てるとは思っていなかった。自分で撒いた種でもあるが、風藤には負けて、少しの間落ち着いた高校生活を送って欲しいと思った。
――だが、勝負の結果はどうであれ、これは変わらなかったと思う。
この勝負の後、俺は再びサッカーへの道を歩むことになったということは。