ボコボコのグラウンド~ある意味でお約束な展開
「えー、何でいけないのっ!? いいじゃん別に!」
「いや、あのね……」
「いいかげんにしろよお前。こっちは本気でやっているんだ、邪魔する気なら早く失せろ」
「なんですってぇ! ちょっとあんた――」
教科書のせいで無駄に重いカバンを二つ持ちながら、俺は自分なりに急いでグラウンドへとたどり着いた。
「うわあ……」
予想通りというかなんというか……。グラウンドの一つのスペース、サッカーコート内に、風藤がいた。風藤は練習着を着た男子生徒二人と向かい合いながら口論していた。
「おい、風藤」
流石に見てられなくなり、俺はその場にカバンを二つ置き、風藤向かってグラウンド内に入り込んだ。
「あ、タカっち! ねえ聞いてよ、サッカー部がさ……」
俺の姿に気づき、風藤は愚痴をこぼすかのように語りかけてくる。それを、前に立つ男子の一人、短髪の鋭い目つきをした男子が、じっと見てきた。
「……なんだ、お前も邪魔しにきたのか?」
怒りがはっきりとわかる声だった。俺は即座に首を横に振った。
「いえ違います。あの、なにがあったんですか……?」
あくまで関係ないということを知らしめようと、俺はわざとらしくそう尋ねた。するともう一人の男子、どこか物腰柔らかそうな優しい顔をした男子が、端的に説明してくれた。
「いやね、この娘が急に『女子サッカー部として、グラウンドを半分使わせて欲しい』って頼んできたんだよ。まあそれでちょっと彼女に説明を、ね……」
それを聞いて、俺にどっと罪悪感が沸き上がってきた。風藤は、俺の提案を馬鹿みたいに聞き入れ、すぐさま実行に移していたのだ。
「女子サッカー部ができるなんて、一言も聞いてないし、この女が勝手にほざいているだけだろ。いいからお前、さっさとこの女を連れて、グラウンドを出ろ。こっちはお遊び気分でサッカーしているんじゃねんだよ」
短髪の男が俺にそう命じる。俺は何となくだが、この男はキャプテンなんじゃないかと思った。
「……ということだ、行くぞ風藤」
自分の責任ということもあり、俺は命じられるままに、風藤の手を取って、グラウンドを出ようとした。
「やだ!」
だが風藤、子供が駄々をこねるように、俺の手を離した。風藤はスポーツ刈りの男子をキッと睨み付けた。
「なんだ?」
「あんた、さっきあたしのこと、お遊び気分って言ったわよね?」
風藤の中に、上下関係男女関係はまったくないようだ。昨日「高校生」になったばかりの人間とは思えない、大胆さで風藤はスポーツ刈りの男子に問うた。
「遊びだろ、ていうか常識ねえんだよ、お前」
……まあ、この男の言い分もわかる。いきなり現れて、ありもしない「女子サッカー部」として、練習させてくれと言われたら、怒るのも仕方ない。中学の時の俺も、多分同じ態度を取っている。
……なのに、なぜだろう。なぜか俺は、拳を握りしめていた。
「――いいわ、そんじゃ遊びじゃないってことわからせてあげようじゃん!」
「はあ? どうやってだよ」
「そんなの決まっているでしょ……!」
「ビシィッ!」と擬音が出そうなほど、風藤は人差し指を突き立て、グラウンドの外にいる生徒にまで届くような声で、こう宣言した。
「サッカーで、勝負よ!」
サッカーのことになると周りが見えない……。それが風藤朱鳥の長所であり、短所であった。