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日本帝国記  作者: 浦波
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54 その後の世界(終)

 西暦470年(皇紀1070年)



 日ロ戦争からおよそ300年が経ったが、ローマ帝国は未だ健在だった。

領土もかなり広がり、イギリス、アイルランド、ドイツ、オーストリアなどを支配し、現在はハンガリーやスロバキアに侵攻中だ。


何故ローマ帝国が未だに存在し、発展を続けているかと言うと、日本帝国の存在のせいだ。

史実では民族大移動やペルシアなどアジアの脅威があったが、日本帝国がヨーロッパ以外全てを支配した事でその脅威が無くなった。

それに日本帝国という強大で明確な敵の存在によってローマ帝国は纏まり、何とか日本と対抗出来るようにヨーロッパ統一を目指していた。




 ヨーロッパ側のボスポラス海峡から日本側のそびえ立つ壁のような要塞線を見る親子がいた。

二人の身なりは綺麗で、服はシルクの生地に金糸や銀糸で細かい刺繍や装飾を施してある。

その出で立ちから貴族なのは明白だ。

更によく見ると、二人の服の生地は日本製のシルクで、そのうち一人の腰に下げている武器は鞘や柄に装飾が施されている日本刀だった。

もう一人の剣は日本刀では無いが、それでも装飾が施されていて見るからに高そう。

この事からこの二人は貴族の中でもかなりの上位に位置している事が分かる。

何故なら日本製の物は交易地であるマルタ島にしか流通してなく、値段も目が飛び出る程に高い。

とてもじゃないが平民は勿論、下級貴族にも手が出せない。

日本製の物を持っているだけでも箔になるというのに、この二人は服から靴まで全部が日本製だ。

その様は歩く金塊に近い存在なのだ。


「…あれがボスポラスですか……」

息子が口を開く。

「そうだ、あの壁が日本への入口である名高きボスポラスの壁、またの名を『絶望の壁』とも言われておる」

父親の言葉に息子は黙ったまま高く、威圧するような雰囲気のある壁を見続ける。

「何故『絶望』と言われているのかと言うと、あの壁の向こうには絶望が広がっているからだ」

「絶望…ですか?」

「そうだ。

お前も知っての通り、かつてローマ帝国は広大な領土を誇り、アフリカやアジアをも支配していた。

しかし今からおよそ300年前、日本帝国が攻めてきてアジアやアフリカを取られた。

そして日本は自国とローマを分断するためにあの壁を築いた。

日本は自国への他国民の入国を禁じ、交易地としてマルタ島を開発した」

ここまでの父の説明に息子は頷く。

そこまでは教師に習ったし、マルタ島には父にせがんで連れていって貰ったから実際に見た。

交易のために作られた街と言えど、首都ローマを凌駕する程の大都市であった。

地面はレンガで舗装され、ゴミ一つ落ちていない。

街並みも様々で、レンガで作られた高い建物から細かい彫刻が施された建造物、木造で作られた美しい宿泊施設など様々あり、どれもローマ帝国の技術を遥かに凌駕していた。

商店には見たことも無い物が沢山売ってあり、パイナップルやマンゴーと言う美味しい果物や、他にも美味しい食べ物が沢山あった。

武器も沢山売ってあり、今自分が腰に下げている日本刀はその時に買ってもらった物だ。

当時はまだ体が小さく、上手く持てなかったが、今では問題なく振れる。

扱いが難しいし、高い武器だからあまり好まれないが、切れ味はどの武器にも勝るし、持ってるだけで箔がつくので上流貴族には人気だ。


「日本との戦争に大敗を喫したローマ軍は弱体化し、隣国からの侵攻に苦悩の時代を迎えたが、当時の皇帝であったアントニヌス帝が日本から大量の武器や物資を格安で仕入れた。

それにより戦線は回復し、逆に侵攻して隣国を支配した。

そして今では更に領土を拡大し、かつての威光を取り戻した」

誇るように話す父親に息子も同意する。

しかし父親は次の瞬間には絶望したかのように暗い雰囲気を出す。

「領土を拡大し、軍事力を日本戦以前よりも高く出来た事で時の皇帝エウゲニウスは増長し、奪われたアジアやアフリカを奪還すべく日本に侵攻した。

30万の大軍を率いてこのボスポラス海峡を越え、日本領内に侵攻しようとしたが、叶わなかった。

それどころか対岸に辿り着く事さえ出来なかった」



父親の言葉に息子は(まさか、あり得ない)と思った。

30万もの大軍を率いたというのに、この対岸が見える程に狭いボスポラス海峡を越え、対岸に辿り着けなかったなど信じられなかった。

息子の疑わしい視線に父親は苦笑した。

自分も父から聞いた時は疑ったのだから。

「信じられないだろうが真実だ。

実際に戦闘に参加した父上、つまりお前のお爺様から直々に聞いたのだから間違いない」

父親の自信満々な口振りにそこまで言うのなら真実なのだろう、と父親の言葉に息子は不承不承だが頷いた。

「エウゲニウスは軍勢をこのボスポラスに集結させ、船団を組んでこの海峡を渡ろうとした。

しかし、日本の領海に入った瞬間、何かが飛んできた」

「…何か、ですか?」

「そうだ、父上もそれが何かは分からなかったらしいが、とりあえず何かが飛んできたのは間違い無いらしい。

その何かは沢山飛んできて、船団に降り注いだ。

何かが降り注いた船は突如爆発し、一気に沈んでいった。

そしてその光景はボスポラス海峡中で起きた。

日本の領海に入った入らなかった関係なく、船団全てにその何かが降り注ぎ、遂には全滅した。

船は燃え盛り、乗っていた兵士達のほとんどが体がバラバラになって浮かび、僅かに生き残っていた兵士達は鎧を脱いで必死に対岸まで泳いだ。

しかし対岸を目指した兵士達は何か矢より早い物に射抜かれ、絶命した。

沿岸からその光景を見ていた父上は「この世の光景とは思えなかった」と思ったらしい」

父親から戦いの様子を聞いたが、イマイチよく分からない。

空を飛ぶ何かとは何だ?

矢より早い物とは何だ?

父親に尋ねたいが、質問するような雰囲気ではなかったので黙って聞き続ける。


「その何かが降り注ぎ、船団が全滅するのに時間はかからなかった。

しかしまだ岸には大軍がいた。

流石のローマ軍にも30万もの大軍を一気に運ぶ程の船は無かったのだ。

第一陣で散った部隊は約1万程。

大損害だが、全体で考えればそんなに痛くは無い。

しかし流石のエウゲニウスもその光景を見て、また同じように船で行っても無意味だと悟ったのか、撤退するべきかを考えていたらしい。

しかし日本軍は侵略しようとしたローマ軍に対する制裁を止めた訳ではなく、また再び沢山の何かが飛んできた。

オマケに今度は海峡ではなく、沿岸に集結していたローマ軍やコンスタンティノープルの街に降り注いだ。

その何かはローマ軍の中心や集まっている所に飛んできて、地面にぶつかり爆発した。

その爆発の周りにいた兵士達は皆死に、離れていた兵士達にも鉄片が降り注ぎ、死傷者を出した」

「鉄片ですか?」

「そうだ、その何かは鉄で出来ているらしく、爆発の時に鉄片もバラ撒いた。

そこら中で爆発が起き、兵士達は混乱した。

退避するにもどこが安全か分からぬし、自分達より後方にあるコンスタンティノープルの街にも降り注いでいるので逃げ場は無かった。

父親はその場でうずくまり、必死に助かるよう祈っていたらしい。

「その時が人生で一番真剣に祈った」と笑い話にされていたが、その割にはそれ以降、その話をほとんどしたがらなかった事から本当に恐ろしかったのだろう」

父親の説明に、実際の現場は想像すら出来ないが、恐ろしい事だったというのは理解出来た。



「しばらくうずくまっていると、いつの間にか爆発は止み、何かが飛んでくる事も無くなった。

ようやく頭を上げて見ると、周囲にはバラバラの仲間の死体が転がり、地面は所々大きくへこんでいた。

父上の他にもかろうじて生き残りはいたが、無傷なのは父上を含めてほんの少しだったらしく、大抵は腕や足が無かったり、失明していた者もいた。

父上は無傷な者達と一緒にコンスタンティノープルの街に向かったが、そこには街は無かった」

「…街が無い?」

父親は頷き

「かつては大きな街があり、大勢の人々が生活を営んでいた街は無くなっていた。

そこにあるのは死体の山で、兵士達のように体がバラバラになって死んでいた。

かつて栄えた街は瓦礫の山と化し、まるで廃墟だった。

その廃墟には子供の鳴き声が鳴り響き、他にはうめき声しか聞こえなかった。

かなりの規模を誇ったコンスタンティノープルは1日と経たずに廃墟となった。

あまりの光景に父上はしばらく呆然とし、現実だとは思えなかった。と言っていた」

あまりの説明に息子も呆然とする。

確かに自分だとしてもそんな光景を見れば現実だと信じたく無いだろう。



「エウゲニウスは爆発で死んだので父上達は急いでローマへ帰還し、元老院に報告した。

エウゲニウスの死や、ボスポラス海峡の対岸にすら到達出来なかったという報告に対して元老院は信じなかった。

あまりに荒唐無稽な事なので無理も無い。

しかし父上達は必死に説得し、元老院の一人をコンスタンティノープルまで連れていった。

そしてそこに広がるのは前と変わらずの廃墟。

いや、少し日にちが経ったから生存者がそこそこいたらしい。

かつての栄えた街が廃墟になり、ボスポラス海峡の沿岸には膨大な数の死体が未だ転がっていた。

その光景を見た元老院は父上達と同じようにしばらく呆然とした。

元老院が呆然としている間に父上達はエウゲニウスの死体を運び、呆然としている元老院に見せた。

下半身が無くなっていたが、上半身は残っていたのでエウゲニウスと断定出来た。

ようやく正気に戻った元老院は急いでローマに帰還した。

帰還した元老院は自分が見てきた光景を語り、エウゲニウスが死んだ証拠としてボロボロになったエウゲニウスの持ち物を見せた。



皇帝が死んだので急いで代わりの皇帝を擁立し、マルタ島に向かった。

既にマルタ島の日本大使はローマ帝国の侵攻を知っていたらしく、激しく糾弾してきた。

新皇帝ホノリウスは謝罪し、「先帝は死に、もうこちらは攻める気は無いのでどうか許して欲しい」と必死に懇願した。

その結果、懇願が効いたのかはわからぬが、大使は停戦を許してくれた。

しかし制裁としてしばらくはマルタ島を封鎖し、ローマ帝国との交易を凍結した。

もしマルタ島に近付けばその船を沈める。と大使は宣言。

翌日、マルタ島にいるローマ人に対して退去命令が出た。

マルタ島にいたローマ人の商人達と一緒にホノリウスはローマに帰還した。

ボスポラス海峡やコンスタンティノープルの被害を調べたら、30万いた兵士の6割は死に、生き残った者達もほとんどが重症を負っていた。

コンスタンティノープルもほとんどの建物が崩壊し、住民も多くが死んだ」




 なんとも物語を聞かされたようだった。

まるで人間が神や悪魔と戦ったような感じになり、息子は微妙な顔をする。

「信じられないような話だが、全て事実だ。

それからしばらくはマルタ島は封鎖され、日本と一切の交易は無くなった。日本の商品を扱っていた商人達には大打撃だったようだ。

それに我々貴族も高品質な日本の商品が一切手に入らなくなり、不便をしたものだ。

まぁそのおかげで日本商品の値段は急騰し、下級貴族達は少ないながら日本商品を売ってそれなりに稼いだようだがな。

ようやく凍結が解除されたのはお前の代になってからだ。

だから私の子供時代はマルタ島には行けなかった。

昔のお前のように私も父上によく「マルタ島に行きたい」とねだったものだ」

いきなり昔話をされたので息子は恥ずかしそうにする。

父親の計らいによって先程までの暗い雰囲気が大分和らいだ。


確かにマルタ島の封鎖はかなりきつかっただろう。

日本製の何かは分からないが着心地の良い生地や、真っ直ぐで綺麗な縫い目、見たことの無いデザインなど、様々な理由から王族や貴族など上流階級の服のほとんどは日本製だ。

他にも、晩餐会など公式の会食では日本の牛肉や豚肉、鶏肉を出すことが多い。

日本の肉は非常に美味で、ローマの肉など比べ物にならない程の差がある。

ワインにしても、日本のワインは熟成され、非常に美味しい。

ローマのワインがただのブドウの汁と思える程に。

食器の類いも日本製の銀食器や、ステンレスという錆びない鉄で出来ている物が多い。


このように、最上級の持て成しをする際には、日本の物を使うのが当たり前なのだ。

いかに多くの日本製品を所持しているのかが、上流階級の誇りになっている。

その点、我が家はそれなりの位置にいる。

食器や食材は勿論、家具、絵画、美術品など様々な日本製品を所有している。

それらを一つ売るだけで広い敷地を持つ豪邸が建つ程の価値がある。




 父親は後ろを向き、コンスタンティノープルの街を眺める。

「前の街に比べたら大分小さくなったが、コンスタンティノープルは復興した。

しかし日本の恐ろしさを体験した当時の住民のほとんどは街を去った。

今街に住んでいるのは当時を知らない者達だけだ。

そうでなければ恐ろしくて住めないだろうがな」

寂しげなような、何とも言えない目をする父親を見て息子は何も言わず黙った。

「…そうだ、忘れていたが何故あの壁を『絶望の壁』というのかだったな。

『絶望の壁』とは、あの時ローマ軍はあの壁を触る事さえ叶わなかった。

「もしもあの壁を越えて日本領内に入ったなら、更なる『絶望』を味あわせられる」という話から発展して『絶望の壁』と言われるようになった。

それと「あの壁はこちら側に訪れようとする絶望を塞き止めているんだ」という話もあったな」

その話を聞くと、さっきまでは大きいだけの壁が、何か恐ろしい物のように思えてくる。

決してあの壁を越えてはいけない。

息子は何故かそう思ったのだった。




 その後、日本同様永遠に続くかと思われたローマ帝国は、先の第二次日ロ戦争の影響や宮廷闘争、キリスト教の強大化などによって徐々に弱体化し、遂には史実通りに西ローマ帝国と東ローマ帝国、更には教皇領に分裂。

ちなみに西ローマ帝国はポルトガル、スペイン、フランス、ベルギー、オランダ、スイス、イタリア迄。

東ローマ帝国は残りのローマ帝国領土。

教皇領はバチカンやローマだ。



そして西ローマ帝国と東ローマ帝国は戦争をし、更に互いに弱体化した。

特に東ローマ帝国は西ローマ帝国に比べてまだ開発が不十分な辺境が多いため、各地で独立運動が起き、結果東欧諸国が次々独立。

西ローマ帝国でも中央と地方のやり方で齟齬が生じ、フランスやスペインが独立。

こうしてヨーロッパはバラバラになり、史実通り長い長い戦国時代が始まったのだった。




 ヨーロッパがバラバラになっている間に、日本帝国は南極に地下都市を建造し、砂漠にもドーム型の都市を築くなど、極地もほぼ制覇した。

月や火星にも基地や地下都市を建造し、宇宙へと支配地を広げていた。

間もなく太陽系全体の支配も終えるだろう。

ヨーロッパと日本帝国の差は広まるばかりだった。

あまりにも差がついてしまい、北郷は「もうヨーロッパいらなくね?」と思えてきた。

ここまで広がったのなら地球を統一して後方の憂いを無くし、宇宙開発に専念した方が良いような気がしてきた。

まだ宇宙人にはお目にかかって無いが、何れは生命体にも遭遇するだろう。

流石にもう自分の寿命が尽きるだろうから「いっそのこと世界征服を成し遂げてみるか?」と考えた。



流石にいきなり侵攻して支配するのでは後々に支配したヨーロッパ人が不満を貯めるだろうから、マルタ島にて火縄銃や大砲の販売を開始した。

まだ史実より大分早いが、ヨーロッパ諸国が銃を手に入れれば戦争はますます拡大し、どこかの国の勢力が増すだろう。

そうすれば先のローマ帝国のように増長し、日本に侵攻してくる可能性が高まる。

それを口実にしてヨーロッパに侵攻し、支配下に治めれば良い。

しばらく矯正が必要になるし、キリスト教が邪魔くさいが、それも問題無い。

キリスト教が北郷教に対してテロに踏み切ればカルトとして弾圧する。

この世界ではキリスト教は弱小宗教でしかない。

完全には潰せなくても、少なくともバチカンは潰せる。

支配地を失えば弱体化していくのは国も宗教も変わりは無い。

それにバチカンを潰して弱体化した後はほっとけば良い。

徹底的に弾圧すれば反発するが、特に弾圧しなければ反発しない。

そして更に、プロテスタントを創設する。

カトリックより自由度が高いプロテスタントは人気が出る。

カトリックは厳格な教徒が多いが、プロテスタントはあくまで個人の善意に委ねるから北郷教とも比較的仲良く出来る。

少なくともカトリックよりはマシだろう。


プロテスタントでカトリックを減らし、プロテスタントを北郷教に改宗させる。

よほど厳格なキリスト教徒でなければ、より自由度が高い北郷教の方が良いと思う人が多い筈だ。

あくまで北郷教は個人の自由意思に任せるから勧誘もしない。

そうすりゃ自然と信者が増える。

勧誘すると反発心を持たれかねないからな。

御愛読ありがとうございました。


結局最後まで戦国時代とほとんど同じでしたね……。

何とか変えようとはしましたが、やっぱり同じような展開になっちゃいました。



次回作については未定です。

二次が結構制限されたので難しいです。


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