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日本帝国記  作者: 浦波
27/55

26 交渉

 紀元前213年(皇紀387年)



始皇帝サイド


 始皇帝が何時も通り執務をしていると、文官が部屋に入ってきた。

「陛下、御執務中に失礼します」

礼をする文官を見て始皇帝はため息を吐いた。

また何処かで問題があったのだろう。

大陸を統一したのは良いが、その代わりに毎日何かしらの問題が起きている。

やれ盗賊が出たや、やれ反乱の兆しがあるなど、数えたらキリが無い。

「…何事だ?」

面倒だが無視は出来ないので文官に尋ねた。

「はい、実は遠国からの特使が参り、是非陛下に謁見したいと申してます」

「遠国? 何処の国だ?」

「日本帝国という聞いた事も無い国です。

陛下はご存知でしょうか?」

文官に聞かれて始皇帝は記憶を探る。

しかしやはり聞いた事の無い国だ。

始皇帝の知っているのは南越、東胡、匈奴、朝鮮などの秦と接する国だ。

日本帝国など聞いた事も無い。

「いや、余も知らん。

何処にあるのだ?」

「特使が申すには東の海の先にある島国で、1番近い国は朝鮮だとか」

朝鮮という事は東夷か。

成る程、大まかにしか分からないが、中華では無いという事なので異民族か。


「で、その異民族の特使が余に会いたいと?」

たかだか異民族に何故会わなければならないと目で訴える。

「それがその異民族は自国の王からの親書を所持していまして、内容は陛下にしかお見せ出来ないと断られました。

大陸に来た目的は秦と国交を結び、交易がしたいと申していました」

「国交だと?」

何でそんな名前も知らない程の田舎の国と国交を結ばんといかん。追い返せ。と始皇帝が言いそうになると文官が付け加えた。

「親書の他に、陛下への献上品も持っていました」

「献上品だと?

…どんな物があった?」

「金細工で鞘や柄を彩った見たことも無い宝剣や、金、銀、色鮮やかな布など様々です」

文官の目には「あの献上品まで追い返すのは勿体無いです」と訴えていた。

だからわざわざ私の元に知らせたのか。

たかだか異民族が親書を持っていただけなら門前払いにするだろうが、それを無視する程に素晴らしい献上品があったから知らせに来たのだろう。

…確かにそこまでの物なら是非見てみたい。

それに謁見して献上品だけ貰い、追い返せば良い。

所詮東夷、交易などする価値も無いわ。

いや、もしその献上品が素晴らしかったのなら南越のように服属させてるのも良かろう。

我が国の力を見せ付ければ容易に降伏する。

「……よし分かった。

その特使に会ってやろう」




 そして特使と会う日が来た。

特使と会う前にその素晴らしい献上品を確認した。

見たことも無い細い剣で鞘や柄には金細工が施され、柄には宝石も埋め込まれている。

刃も美しい紋様がかかり、気品さえ漂う。

他にも金や銀で出来た腕輪や首飾り等の装飾品、見たことも無い色に染め上げられた布、触った事の無い手触りの布で出来た衣服などなど素晴らしい物ばかりだった。

確かにこれなら例え異民族でも会う価値がある。

あの時追い返してなくて良かったとご満悦だ。


ある程度献上品を見回り、一応貰ったのだからと使者が待つ大広間に来た。

大広間は朝議や外交で使うために広く、豪華絢爛に飾られている。

その大広間の中で、特使は玉座の前に跪き、頭を垂れている。

始皇帝は玉座に座り、特使を見下ろす。

見た目は大陸の人間と変わりは無いが、格好が変だった。

他国の皇帝に謁見するというのに地味な色の見たことの無い服を着、特に装飾品も身に付けていない。

特使は他国に自国の国力を見せ付けるために嫌味にならない程度に豪華に着飾るのが普通だと言うのに、この異民族はそういった常識を知らぬのか、と呆れていた。

親書を受け取って適当に対応して追い返えそう。と改めて決めたのだった。


「表を上げい」

特使に命じた。

特使は命じた通りに顔を上げる。

その顔は多少大陸人とは違い、どことなく無骨だった。

「本日は皇帝陛下に拝謁出来、恐悦至極に存じます。

私は日本帝国特命全権大使、村岡真治と申します」

特使の村岡は自己紹介をした。

珍しい名前だが、始皇帝は別に気にする事はなく

「貴国からの献上品確かに受け取った。

珍しい品々に感謝する」

一応礼儀として礼を言っておく。

始皇帝はこれが言いたかったのでもう追い返したいが、流石に理由も無しに追い返すのは難しいので話を進める。


「して、今日は我が国と国交を結びたいらしいな」

「はい、先ずはこちらをお読み下さい。

日本帝国皇帝、北郷様より陛下への親書です」

村岡は侍従に竹簡を渡した。

侍従は竹簡を受け取り、壇上の始皇帝に渡した。

皇帝、という言葉に若干イラついたが、物を知らない異民族なのだから仕方ない。と自分を落ち着けて竹簡を開いた。

内容を見ると、字はちゃんと大陸の文字を使用し、文法も間違っていなかった。

これで追い返す理由が減った。

異民族だから親書の字や文法を間違えるだろうから難癖付けて追い返す気だったのだ。

まぁ先程の皇帝発言を蒸し返しても良いのだが、献上品に免じて許す事にした。

親書に問題は無いので内容を読み始めた。

中身は挨拶と遅れながらも大陸統一の祝言、そして国交を結び、交易をしたい。と書いてあった。



親書を読み終えると竹簡を畳み、顔を上げた。

「親書には我が国と国交を結び、交易を築きたいと書いてあるが?」

「はい、是非とも我が国と対等な関係を築き、交易を結びたく来ました」

村岡が発言した瞬間、大広間の空気が凍りついた。

「……今、なんと申した?」

聞き違いか? と始皇帝は聞き返す。

「はい、是非とも我が国と対等な関係を築き、交易を結びたく来ました」

村岡は同じ言葉をそっくりそのまま言い返した。

自分の聞き違いでは無いと確認した始皇帝は激怒した。

「名前すら聞いた事も無い田舎の国と対等な関係だと!?

ふざけた事を抜かすでない!!」

始皇帝は立ち上がり、村岡を叱責する。

全ての中心たるこの秦帝国と対等な関係だと、何も知らぬ田舎者とて言って良い事ではない!! と始皇帝は激怒していた。

しかしそんな激怒する始皇帝に村岡は冷静に聞いた。

「それは我が国と国交を結ばない。という事でしょうか?」

その言葉に始皇帝は更に激怒する。

「当たり前だ!!!

何故貴様のような異民族の国と対等な関係など結ばなければならん!!?

そんな国と交易しても我が国が得られる物など無いわ!!!」

「……それは我が日本帝国を、引いては皇帝陛下を侮辱しているのですか?」

それでも村岡は冷静に聞き返した。

まるで確認のように。

「そう聞こえなかったのなら貴様の耳は飾りか?!

とっとと余の前から失せよ!!」

始皇帝はどうせ追い返すのだったから丁度良い、として村岡を追い返した。

それに村岡はまたまた冷静に

「分かりました。

今回の結果は残念に思います。

失礼しました。」

と言って立ち上がり礼をして扉に向かって歩いた。

そんな村岡に始皇帝は

「…交渉は決裂したが献上品は置いていけ、さすれば貴様の命は助けてくれよう」

万が一献上品を返せとゴネられたら面倒なので言い放つ。

それに村岡は振り返り、再び礼をして立ち去った。



ふんっ、世間知らずの田舎者め。

この秦帝国と対等な関係を結ぶだと?

流石は名も知らぬ程の辺境の国よ、恐れという言葉を知らぬらしいな。

……まぁ良い。

献上品は手に入った。

世間知らずだが、装飾品や染め物など手先は器用なようだ。

何れは日本帝国とやらも攻め、支配してその技術も取り込んでくれよう。




北郷サイド


 帰ってきた特使から報告書と交渉の際に録音させていたレコーダーを受け取り、内容を聞いた。

……バカかコイツ?

いくら見下してても外交上、礼儀を尽くさなくてはいけない。

それなのにハッキリと侮辱し、確認をとっても「そうだ」と答えた。

宣戦布告やあまりに無礼を働かれたのなら仕方ないが、こちらの特使は何も可笑しい事を言っていない。

ちゃんと親書を相手側の言葉で書き、献上品も用意した。

特使の服装がスーツにネクタイというこの世界では非常識かも知れないが、日本の正装なので問題無い。

それに対等な関係を求めたのだって何らおかしくない。

それが当たり前だ。

普通いきなり属国になりますなんて言わない。

そこは流し、国力を確認したり、逆に日本に特使を派遣して調査させるなどすれば良かったのだ。


だと言うのに始皇帝は外交上の礼儀を全て無視し、尚且つ他国やその国の皇帝を侮辱した。そして更に献上品を置いていけと命じた。

別にそんな事を言わなくても献上品は献上した時点で相手の物なのに。

まぁ確かに交渉が決裂した場合は献上品を受け取らずに返す事もある。

それを封じたんだろう。

無駄に装飾した日本刀や装飾品、科学的に合成した繊維や染色した布、西洋風の銀食器。

この時代ではあり得ない物ばかりだったから余程欲しかったらしい。



おかげで脚色する事無く秦帝国を真っ向から非難出来る。

何せ日本から見れば文明レベルが地を這うように低い国と「対等な関係で良い」と言ってやったのに、それを断るだけではなく侮辱までされたんだ。

宣戦布告理由としては十分。

これを更に秦帝国が悪いと煽れば漢民族を絶滅させても文句は出ない。

文明は発達したが、命の値段がそんなに高くない日本が遥か格下の秦に愚弄されたんだ。

烈火の如く怒り狂うだろう。

この世界の日本人は無礼者には決して優しくないからな。



始皇帝が侮るように護衛の兵士達の装備はこの時代相応にし、朝鮮や満州からの陸路ではなく、わざわざ海路で行った。

これは現代式の装備で行くと警戒されるし、満州や朝鮮から向かったのでは広い領土を持ってるからと対応を考えさせないためだ。

船は小さいジャンク船にしたから更に侮ったのだろう。

特使を寄越す船がそんな程度なら大した国力は無いと。

甘ぇよ。

テメェらのように単純な外交と違って、こっちは1000年以上先の狡猾で嫌らしい外交と渡ってきたんだ。

テメェらの外交(笑)なんて簡単なんだよ。

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