過去。
アタシと、矢田智樹は付き合い始めて3ヶ月と23日。
順調…なのかなあ。
恋愛とか、よく知らない。
だって、愛を知らなかったわけだし。
智樹はアタシにいっぱい「愛」をくれてたと思う。
たまにエロいのは嫌だけどっ…!
でも、やっぱ自分から「好き」だと言えなくて…。
素直じゃない自分が嫌いだ。
でも、智樹が好きな自分なら…。
少しは自分を好きになれているかもしれない。
…まだ、言ってないけど…。
智樹のことが好きだ、と素直に言えたらな。
今日は、クリスマスイブだ。
もちろん、智樹と会う。
町にある大きなツリーを一緒にみる約束をしていた。
…その後はまだ決めてないんだけど。
でも、今日は自分から「好き」だと伝えようと思う。
恥ずかしいけど、智樹に「好き」をもらってばかりではダメだ。
…智樹が家に迎えに来るまであと2時間。
自分の精一杯のオシャレをしている。
短いフリルのスカート。
白いコート。
黒いニーハイソックス。
茶色いブーツ。
…サバサバしているアタシには似合わないものばかりだけど…。
「なんで智樹はこういう可愛い系が好きなのに、アタシなんだろ…」
…智樹はモテる。
お調子元気キャラで、人気。
顔もかっこいいし…。
たまに、自分に自信が無くなってしまう。
でも、今さら諦められないし。
智樹が自分のことを好きになってくれてアタシは変われた。
…感謝してる。
はあ、本人に言えたらいいんだけど。
…RRR,RRR…
「あっ」
アタシのケータイが鳴った。
開いたケータイには「智樹」の文字。
「思ったより早いなあ」
…でも、早く会えるのか。
そういった思いを抱いてケータイにでる。
「もしもし?」
「あ、えーと、杏さんでいらっしゃいますか…?」
「はい、そうですけど…」
…誰?
「私は双葉病院のものです。…矢田さんが…」
…え?…と…もき…?
アタシは視界が眩んだのが分かった。
「智樹ッ!」
病室のドアを開けると、智樹が白いベッドに横たわっていた。
「と…もき…?」
「杏さんでいらっしゃいますか?」
声のした方に振り向くと、そこには医者らしき人がいた。
「は…はい」
「…本当でしたら親御さんをお呼びするのですが…」
「…?」
「矢田さんのケータイには貴女のアドレスしか登録されていませんでしたので…」
「え…」
ちらり、と智樹をみた。
「そ…そうだ!!智樹、智樹は大丈夫なんですか!?」
「ああ、ケガは軽いのだけれど…」
「それは、どういう…」
「…記憶の方に、少し障害が…」
「そ、それって…?」
「…多分貴女の思っている通りです…」
「そ…そんな…」
智樹が…。
…アタシを忘れているかもしれない…?
ありえないよ…。あんなに愛してくれていたのに…。
嘘…だ。
そうだ、嘘だ。
きっと智樹はアタシのことを覚えてるッ…!!
覚えてるのよッ!!
「と…もき…?」
智樹の横たわっているベットへと歩み寄る。
「お…きて…?」
どうしよう。涙が、にじむ。
「ともき…」
アタシは智樹の隣で、声を押し殺して泣いた。
「…?」
「ッ!!と…もきッ…!!」
智樹が起きた!!
あまりの嬉しさに抱きつく。
「うわッ」
「どうしたの…?」
「うっ…ぁともき…智樹、智樹ッ…!!」
「えと…とりあえず泣き止んでください…」
「…え…?」
…敬語…?
一瞬嫌な考えが頭を過ぎる。
…智樹…、やめて、それ以上言わないで…。
「それと…、誰…ですか…?」
言わない…で…。
「……ッ」
…これは夢?
だったら早く現実に戻して?
智樹といた、現実に戻して…。
…どうしよう。頭が真っ白だ。
最悪だ…。
「な…んで…?ねえ、智樹…」
「あの…」
「アタシよ!!杏よ!!思い出してよ!!ねえ!!」
「わ…ちょっ」
「智樹ッ!!…ぅぁっあああああああ!!!!」
アタシはこの日を境に、智樹と会わなくなった。
智樹と関わることが怖くて、顔を合わせるのも怖かった。
アタシは智樹から逃げた。逃げたんだ。
でも、智樹がくれた「好き」だという感情は消えてはくれなかった。
私が智樹に伝えられなかった「好き」という感情が。