怪奇事変 上階の物音
投稿遅れて申し訳ありませんでした!
第三十二怪 上階の物音
「ふぅ」
一息付きながら部屋に置かれた段ボールの山、その中から出された物品の数々を見ながらため息を吐く。
二十歳を迎え、大学に通うために1人暮らしのため、上京してきた。
初めての引越と言うこともあって費用や体力を予想よりも多く使うことに少々の驚きはあったものの「それが普通よ」っと言う母の言葉でこれが世間に出る一歩と言うことなのだろう。
整理を続けながら作業をしているとインターホンが鳴る。
「はーい」
段ボールに足をぶつけてしまい、よろめきながら玄関に向かう。
痛む足を摩りながら中腰態勢で扉を開くと、そこには大家さんがいた。
「こんにちは、引っ越しは順調ですか?」
「ええ、初めてと言うこともありましたがなんとか……」
できた…と言おうとするもまだ部屋は散らかったばかり。
その現状にどう言い訳をすればと思いながら向きなおると流石の大家さんも困惑した表情を浮かべつつ「手伝おうか?」と一言言ってくれた。
「い、いいえ!だ、大丈夫です!まだ到着したばかりなんで……」
いや、到着した時間はもう既に3時間以上経っている。
持ってくる荷物が多すぎたのかもしれない。
最初は軽く、あとから徐々に実家から持ってくれば良かったと後悔した。
「まぁ、できる限り早めに終わらせますので……」
げんなりしながら答える。
今日の夕飯は間違いなく出前とかになるだろう。
何時までこうして立ち話をしてても仕方ないと思い、部屋の片づけを始めることにした。
「お、終わった……」
時間にしてほぼ一日使って無事に引っ越し作業が終わった。
その努力の結晶と言うべき残されてた残骸である段ボールが良い証拠だ。
ハッキリ言って今日一日で片づけなくても良いものもあったが、初めてしまったため仕方なくって形だ。
「出前…は高すぎるか、節約も考えて自炊したいところだけど体力もないし、せめてどこかで飯を買ってすませう」
そう決め財布を取りだし出かけようとしたさい——
トン——トン——トンっと物音が聞こえた。
「?」
部屋の中から響いてる?と思い物音を探るが違った、音の発生源は上階からだった。
「あれ?でも——」
引っ越し作業が終わった後に、引っ越しの挨拶で上階を訪れたか誰も居なかった。
確か表札は「乾」と書いてあったような気がする。
「にしても…下まで物音が聞こえてくるこの音は……」
何を叩いてる音なのだろうか?
そこまで強く衝撃を加える音って……上で何をやっているのだろう?
幸いにも深夜など迷惑になる時間帯ではないので無視をして買い物を済ませることにしたが、この物音が後に彼を苦しめることになるのであった。
2週間も経つと人は慣れて来るもので、1人の生活にも慣れ始めて来ていた。
初めは食べ物——生活費などの工面を上手くできなくて苦戦をしていたが、徐々にコントロールすることもできたし、いつもなら親に叩き起こされた日常も1人で起床できるようになっていた。
それに——一番は上階の物音にも慣れてきたってことだ。
必ず決まった時間に物音がなる。
大体は夕食時間だろう、初めは気になってどうするか悩んだが、流石に新参者がいきなり現れて早々開幕騒音問題を口にするのは余計なトラブルを起こすと思ってしまったので言うのは控えさせてもらった。
だが一番心配なのはもう2週間も経っているので上階に住む「乾さん」と挨拶ができてないことだ。
菓子折りも用意したが全くタイミングが合わないのだ。
「……」
物音がしている時に声をかけて挨拶だけでも済ませようか?と考えている。
何しろ他の時間帯でお会いできる時間がないからだ。
トン——トン——トン。
一定のリズムで刻まれるまたこの音だ。
また上階で下まで響く何かをしているらしい。
「(でもチャンスじゃないか?)」
ハッキリ言って警察のようにずっと張り込みを続けたことをするなんてごめんだ。
かと言っていつまでもズルズルと引きずって忘れてましたってのも相手に悪いだろ、何しろもう2週間も経っている。
あとで偶然会って挨拶する方が気まずいし、相手の方もなんで挨拶に来ないんだと怒っている可能性もあるかもしれない。
「(なるべく近所付き合いのトラブルは避けたい……)」
そう思い菓子折りを持って上階に行くことにした。
住んで居るこの場所はアパート、だから壁が薄くどうしても隣の声や今みたいに上階の音が聞こえてしまう場合がある。
当然自分の物音だって例外ではない。
そのためにも、ご迷惑をおかけしますと言う意味も込めてご挨拶をするのは当然のことだと思い、乾さんの家のインターホンを鳴らす。
だが——一度ならせば気づくはずの音なのに中々家主は出て来てくれない。
「あれ?」
もう一度インターホンを鳴らす、だがやはり最初と同じで中から誰か出てくる気配もない。
いや、それどころか先程まで聞こえてきた一定のリズムに乗った音が——止んだのだ。
「……乾さん、いらっしゃいますか?」
意を期して扉越しに声をかけるも、向こうからは何の反応もない。
「下に越してきたものです!申し訳ありません、ご連絡遅くなってしまって」
だがそれでも声を掛かって来ない、不気味さを感じながらも声を掛け続ける。
「これ、つまらない物ですが良ければ引っ越しの挨拶にどうぞ」
ワザと監視レンズ越しに見える高さまで上げてアピールするも無反応だった。
流石に此処までされた無反応だと思う所はある……だが、別の目的としては乾さんと喧嘩をするためではなく挨拶をすることだ。
此処は冷静になって菓子折りが入った袋をドアノブの落ちない場所に引っかけて置くことにした。
「あのー、ドアノブの根元に置いておきますから、良ければお召し上がりください!私はこれで——」
トン!——トン!!——トン!!
「ッ!?」
急な物音に驚いてしまう。
しかも物音は階下に居た時よりも激しい音に変わっているのだから。
「(何か…気に障るようなことをしたかな、もしかして、あまり人と関わりたくないタイプ…とか)」
そのような事を気にして早々に自分の部屋に戻るも、あの音は更に強く聞こえた気がした。
一月が経った——
学業も順調——と言いたい所だが、流石に最近は寝不足で全然講義に集中できてない。
その理由は何故か?
決まっている、上階の物音だ。
日に日に強くなっていく音に悩まされている俺はこの件を大家さんに連絡するべきかどうか悩んでいた。
正直、乾さんとは何の接点もないし、真面な挨拶すらしたことがない。
「(しかも、明らかに居るはずなのに居留守使ってるって…今思えば失礼じゃないか?)」
なんだか怒りが沸々と煮えたぎってきた。
善は急げだ、今日帰宅したら大家さんに言ってやろうと思い、携帯でニュースを見ていると気になる記事を見つけた。
「(殺人事件……)」
別に珍しいものではない、ただ自分の日常にはあまり関係のない話に聞こえてしまっているだけで、それだけなのだ。
だが内容は一家全員が殺害された“痕跡”が残っており、血液から本人のものと特定。
ただし死体だけが忽然と消えてなくなっているのだ。
まるで死体だけ一人歩きしたかのように、その事件は最近のものではなく、どうやら俺がこちらに引っ越してくる前からずっと起きているらしい。
警察も事件の解決に難航している様子で、番組もこの事件について犯人らしき人物が居たら連絡をするように促している。
「(メディアを使ってまでの犯行って凄いな……)」
そうまでして見つからないとなると、やっぱり山に埋めたか、海に捨てたかになるのか?
だがそうしたニュースは一件も出ていない。
「……」
そういえば、家のアパートには昔ながらの焼却炉が存在している。
たまに燃えるゴミを焼いている時があるが、本当にたまに異臭が漂ってくるときがある。
窓を閉めれば大概大丈夫だが、一体何を焼いているんだ?っと中身を確認したくなるぐらいの。
「(いや、兎に角今日はクレームだ!)」
ニュースなどどうでも良い!
兎に角、あの騒音さえなくなれば俺の生活に平穏がもたらされる事を信じて今日の帰りに大家さんに言うことにした。
「大家さん」
「あら、どうしたの?」
帰宅早々、要件を説明し迷惑だと指摘するが——大家さんは困った表情で俺を見てるだけだった。
「ごめんね、そんなクレーム初めてだよ」
「え?」
「お隣さんにもそんなクレームは聞いてないし、何より私のミスもあるんだけどね、あの部屋の「乾」って表札はもう何年も前から取ってないんだよ」
「……そんな」
じゃ誰が使って?っと言う話になる。
「そもそもあの部屋は、昔事故があってね」
「事故…ですか?」
「若い子が孤独死しててね、それ以来あの部屋は誰にも使わせてないんだよ」
「……」
初耳だった。
まさか自分が住んで居る場所が事故物件だったとは思いもしなかったのだから。
いや、それ以前に——
「隣の人たちは何も…言ってこないんですか?」
「昔は音が~って言ってたけど、今じゃ慣れたのか何も言わなくなったね、あ!」
何かを思い出したかのように大家さんは口にする。
「でも君が引っ越してくる前の子は確かに音のこと言ってたねー、日に日に物音は大きくなるし、更に時間もズレてきて~って」
「あの!その通りなんです!間違いないんです!」
ここぞ!とばかりに追撃をする。
このまま気のせいやただの勘違いだと誤認されてお終いにされたくないからだ。
「……確かにクマも凄いね、寝れてないのかい?」
「最初はみんなが活動する時間帯だったので気に留めてなかったんですけど、徐々に時間が深夜帯になって、今じゃ全然眠れないんです」
「そうかい、それじゃ確認してみようか」
そう言ってマスターキーを取りだす大家さん。
「(このまま俺も付いて言って、中の様子を確認するぐらいなら…良いよな)」
そう思い大家さんに説明すると意外にもOKをもらえた。
鍵を開けて問題の部屋に入るとそこには驚くべき光景が広がっていた。
「……これって」
「言っただろ?誰にも部屋は使わせてないからもぬけの殻状態なんだよ」
「……入っても?」
「良いわよ、あ、でも汚さないでね」
「はい」
一歩足を踏み込むと——
「ッ!?」
背筋がゾクっとした感触に見舞われた。
冷たい何かで背筋を触られたような感触、首に突き付けられた刃物のような鋭い痛み——思わず首を触るも別に血が出てたりしてる訳ではない。
部屋の中は大家さんの言う通り綺麗になっており、問題の部屋の音源の場所となる台所付近を見ても何も置かれてなかった。
「気が済んだかい?」
「……大家さん、一つ聞いても良いですか?」
「なんだい?」
「此処には人は済ませてないって言ってましたよね?俺、確かに物音は聞こえたんです、それは昨日も聞こえて…間違いないんです」
「でも、誰も住んじゃいないだろ?」
「そこなんです!なんで誰も住んでないのに——引っ越しで渡した菓子折りが消えてるんですか?」
「そんなこと言われてもねー…何処に置いたんだい?」
「ドアノブの根元のところに……」
「誰かが持っていっちまったんじゃないかい?此処の住人なら此処に誰も住んでないことは知ってるし——」
「それじゃ大家さん!此処には人の物を勝手に盗む方が住んでるってことですか!?」
「い、いや、そう言う訳じゃないけど…確かに、おかしいねー」
「……」
確かに大家さんの話も全く間違いではない。
そのように住んで居ない事を理由に物品を持って行ってしまう人物も居るだろう。
だがそれでも、此処の全員と軽い話をした限りではそんな人物が居るようには見えないのだ。
それに——
「大家さん、たまに此処の焼却炉って使われてるの、ご存じですか?」
「焼却炉?あれは私が鍵を持ってるから、私以外使えないよ」
「最後に何時…使いました?」
「なんでそんなこと聞くんだい?」
「先週、焼却炉で何か燃やしてるのを見ました」
「先週?先週は使ってないよ」
「……」
「気味が悪いね、一体どうしたって言うんだい?」
「……いいえ」
あり得ないが最悪なパターンが想像できる。
結局その日は何事もなく終わりを迎えたが、俺の中では色々な点が線を引いて結びついていた。
学校で見た事件、誰も居ない部屋、焼却炉、見つからない——死体。
そんな恐ろしいことが起きてる訳がないのだ。
だが——下まで聞こえてくる物音は尋常ではない。
何かものすごい硬い物を切っているような物音……無駄に整理されているような空部屋。
「(もしこの一連の流れに事件性があるなら……殺人事件の犯人は大家さん?いや、本当にそもそもその事件との関連性はあるのか??)」
あるはずがない、その根拠や理論を論理的に説明できるはずもない。
仮に警察を呼んでも対処は後手に回るだろうし、ますます大家さんを不快にさせるだけだ。
嫌なら引っ越せばいい——そう、嫌なら環境を変えることだって、別に悪いことではないのだ。
新しい移住先を見つけた俺は荷物をまとめていた。
正直此処にはもう住んで居られない。
ドン!——ドン!——ドン!
またこの物音だ。
何故このアパートでは誰もこの物音を注意しないのだろうか?
一月前に見た焼却炉についてもだんまりだ。
念のため物音をする部屋の隣人にも声をかけて事情を聞いたが知らぬ存ぜぬと言う形だった。
そうして時が過ぎて一年経って引っ越しの決意ができた。
そう、もう俺はこのアパートに住む住人を信じることができなくなってしまったのだ。
そうして引っ越しが勧められた最後の日——俺は見てしまった。
焼却炉で誰かが大きなゴミ袋を放り込み焼いている姿を。
後ろ姿は大家さんではない、誰か別の人物。
そしてほんの一瞬、炎で灯りで照らされたレインコートに付着していた——血痕。
その日の上階での物音も異常だったのも覚えている。
コートの人物が不意にこちらを振り返る。
慌てて身を隠すも、カーテンが開いてしまっているため向こうにはバレてしまっている可能性が高い。
——ピンポーン——
呼び鐘の鳴る音。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!
俺の心臓の鼓動は激しく脈打ち息を殺す。
この世には気づいてはいけない、見てはいけないものが存在する。
だが気づいてしまった。
きっとアレの存在をこのアパート人物達は知っていて、知らぬフリをしていただけなのだ。
そしてその人物と一番接点が濃い人物こそ——大家さんだ。
きっと知っていたのだろう。
この部屋は誰も住んではいないが、誰かが使用のために使っている。
なんのため?それは決まっている——解体するためだ。
何を?決まっている、警察が捜査しても見つからない、見つけられない遺体を。
これはただの推測にしかすぎないが、きっと間違のない確信に似たもの。
どうしたらアレだけの血痕を残して誰にも見られることなく行為に及べるのか?
それはきっと——アパートの連中と、その殺人犯が接点があり、尚且つ、友好的な人物であり誰もが知っている人物。
確か大家には子供が居た。
俺と同じぐらいの、あまり会話はしたことはないが挨拶はする礼儀の正しい子。
だが何をしているかまでは分からない息子、それが答えそう——
——大家の息子だ——
昨日未明、東京都に住む男子大学生が行方不明となり、警察は全力で捜査を行っている最中です。
最後に確認されたのは公園で、黒のレインコートを着た人物と何かを会話したあと何処かへ消えて行ったという監視カメラからの情報でわかっております。
警察はこれまでの事件と比較して、今回も行方不明として事件を操作する一方、必ず1人で行動をしないことを念頭に人々に注意を促しております。
引き続き、続いてのニュースです。
栃木県の——
第三十二怪 解体の物音
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