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ファンタジー短編集

『問題は特にありませんでした(全会一致)』

作者: 月見酒
掲載日:2026/01/27


この物語は、

世界を救った“その後”の話です。


剣も、魔法も、戦闘もありません。


あるのは、

きちんと議題を消化するための

ごく普通の会議だけです。



協定締結後・とある会議室にて


王城の会議室には、奇妙な沈黙が流れていた。

中央の長机には、すでに署名済みの協定書が置かれている。


戦争は回避された。

魔王と勇者は和解した。

世界は救われた――はずだった。


にもかかわらず、誰も席を立たない。



「……で、本当にこれで良いのだな?」


王が、念のためという顔で口を開いた。


「はい」


勇者は即答した。

剣は最初から腰にない。


「俺は戦わないと決めましたし」


「決めましたし、じゃなくてだな……」


王は額を押さえた。



「こちらとしても異論はありません」


魔王は書類を几帳面に揃えながら言った。


「侵攻はコストが高い。防衛は効率が悪い。研究の邪魔になります」


「研究?」


「植物です」


「……魔王城で?」


「日当たりが良いので」


会議室に沈黙が落ちる。



民衆代表が、おそるおそる手を挙げた。


「あの……庶民的な感覚で言うとですね」


全員がそちらを見る。


「正直、今までとあまり変わらないんですが」


「変わらない?」


「はい。税も、治安も、日常も」


民衆代表は首を傾げた。


「強いて言えば、“勇者が来なかった”くらいで」


勇者が軽く会釈した。


「来なくてすみません」


「謝らなくていいです」



王は深く息を吐いた。


「つまり……誰も困っていない?」


全員が頷いた。


「問題は……」


王が協定書を見る。


「……特に、ない?」



その瞬間。


会議室の天井が、控えめに光った。


「お呼びでしょうか」


神だった。


誰も驚かない。


「確認です」


神は淡々と続ける。


「勇者は討伐しない。魔王は侵攻しない。王は統治を続ける。民衆は生活を続ける」


「はい」


「世界は存続します」


神は一拍置いた。


「仕様通りです」



「……本当に?」


王が聞いた。


神は微笑んだ。


「“何も起きない”のが最も安定しています」


勇者がぽつりと言う。


「じゃあ、俺の役目は?」


神は即答した。


「ありません」


「……」


「それが、最善です」



神の姿は消えた。


会議室には、再び沈黙。


魔王が咳払いをする。


「では……解散、でしょうか」


王はしばらく考え――


「……そうだな」


民衆代表が立ち上がる。


「じゃあ、畑に戻ります」


「俺も」


勇者も立つ。


「種まきの時期なので」


魔王も立ち上がった。


「良い品種があるんです」



最後に、王だけが残った。


協定書を見つめ、呟く。


「世界は……」


一度、言葉を探し、


「……特に問題なかった」


誰も反論しなかった。



会議室の外、廊下の掲示板には、新しい紙が貼られていた。


「次回会議:未定(問題発生時)」


その下に、誰かが小さく書き足していた。


※発生予定なし



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


問題が起きないことは、

本当に良いことなのか。


その答えについて、

会議では特に議論されませんでした。

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