⑨ 神の領域の技
一体ナニをする気なのか。
具体的な事は一切語らず、雪村は行動を起こした。
彼のたっての希望で、証人として、由理子、京子、ミケーネ、ナーガ、ケクロプス…つまり今回関わったフルメンバーが、その出来事に立ち会うことになった。
一行はミケーネの船に乗り込み、一路22000年前の太陽系を目指して、地球の衛星軌道上から、時空ジャンプした。
ジャンプした出口は当然、また衛星軌道上だった。
確かに地球は無事のようだった。
ただし、この世界線の地球の覇者は、爬虫類族なのだろう。
次にミケーネの操縦で、船は地球の公転軌道を逆のぼるように飛んだ。
すると、太陽の向こう側に、確かに見えて来たのだ。先程、旅立ったばかりのはずの地球にソックリな惑星が!
船内の警報装置が鳴り出した。
目の前の地球のソックリさんから、避難するロケットや宇宙船が、どんどん飛び去って行くのが見えた。
そして、一行の乗った船の後方から、たくさんの隕石群が近付いて来るのが、船内のレーダースクリーンに映し出された。
「…そろそろ頃合いですね?」
雪村がそう言うと、船外のカウンターアースに向かって、窓越しに両手をかざし、ナニやら念を込め始めた様子だった。
「さあ、行きますよ!」
彼の掛け声とともに、目の前の反地球が、少しずつ光を放ちだし、そして最大限に輝いて…やがて跡形も無く、消失した!
「何て事を!?」
ケクロプスは叫んだ。
「大丈夫です…たぶん。」
雪村は答えた。
「今、アナタたちのカウンターアースを、ここから300光年程離れた場所に、移動させました。」
雪村がナニ食わぬ顔でそう言った。
「それは一体…?」
ケクロプスには、訳が解らない。
いや、多分、その場に居る雪村以外の誰にも、この状況は理解不能だろう。
「白鳥座にある、ケプラー1649Aと言う名の、赤色矮星の公転軌道に乗せました。」
「何だって!?」
その仕業の、難しさが具体的に理解できる、ミケーネが叫んだ。
「1年が19.5日になりますが、暮らしに影響は少ないでしょう。」
「いや、それ、短くない?」
由理子が呟いた。
「そして、地球の観測者によって、2020年に見つかるまでは、注目もされません。安心、安全です。」
「…そういうモンダイなのかしら?」
京子は首を捻る。
そして肝心のケクロプスは…驚愕の表情から、次第に満面の笑みに変わっていった。
「有り難い!しかし、ニワカには信じ難い。それが本当なら、神にも等しい仕業だ。」




