⑧ 反地球の危機
「実は彼の…ケクロプスの故郷は、この地球ではないのです。」
「えっ!?」ケクロプスが思わず声を出す。
「今から22000年ほど前に、彼が脱出した星は…太陽に対して、常に地球と正反対の位置で、同じ軌道上を公転している、言わば❝反地球❞…つまりカウンターアースだったのです。」
雪村の説明は続く。
「カウンターアースは、我々の地球にソックリな惑星です。そして、地球からの見た目上、常に太陽の向こう側に有るため、地上からは見ることが出来ませんでした。それは太古の昔から存在が囁かれていたモノですが、我々の住む現代…西暦1990年代には、存在が否定されつつあります。」
「…そうよね。」
最近、サン・ジェルマンの影響で、少し宇宙の勉強をしている、京子が相槌を打つ。
「つまり、ソレは、カウンターアースが、過去の歴史上の何処かで、消えてしまったことを意味します。」
「…なるほど。」コレは由理子の声。
「ケクロプスが体験した隕石の襲来は、その可能性の一つ。その他の原因も有り得ますが、少なくとも、僕の観測可能な全ての世界線で、カウンターアースは、22000年前に消滅しています。」
「…そう…なのか。」ケクロプスのため息。
「そんな訳で、取り敢えず我々の地球は安全です。ただ、彼の…ケクロプスの帰る場所は…取り戻せません。」
「なんで?」お気楽な感じで由理子が尋ねる。
「もしも、そんな事をしてご覧なさい。また4次元やら5次元やらの上位の存在から、色々と干渉されて、厄介な事になるわよ。」
代わりに京子が答えた。
「…ただ、たった一つのカウンターアースだけなら、崩壊させずにコッソリ残せる、裏ワザが有ります。そしてソレは、僕にしか出来ない事です。」
「ソレは何だ?どんな手段でもいい!やってくれ!」
ケクロプスが叫んだ。
それは悲痛な叫びだった。
それはそうだろう。
自らの故郷が救えるかどうかの瀬戸際なのだ。
「この太陽系から、カウンターアースが失われる運命は変えずに、ソレを存続させる方法かあ…って、まさか!?」
流石、日頃から、文明レベルが高いと自負しているミケーネが、ナニやら思い至ったようだった。
「…ソレは、僕にきっと出来る事ですが、なにぶん、初めての試みなので、もしもの場合の保障は有りません。本当にそれでもやりますか?」
雪村が、後々誤解を生まないよう、少々クドいくらい、一言一句ハッキリと、ケクロプスに確認した。
「…頼む。やってくれ。」
「…承知しました。」
息づまる問答が終わった。
「では出来るだけ、この時空の歴史に変動を与えないようにするため、カウンターアースから、全ての住民が避難し終わった直後に、ソレを行います。」




