⑥ 伝説の続き
「しかしその隕石の襲来を、異世界から来た神の子の子孫が打ち破る、と言うのが伝説の続きなのです。」
ナーガ王がそう言うと、目の前の宇宙トカゲが驚いた表情をした。
由理子はそれを見逃さなかった。
「アナタの世界線では、隕石衝突の回避に失敗したのね?」
「そうだ。」
そこで初めて宇宙トカゲが口を開いて言葉を発した。
それはなんとヘブライ語だった。
ヘブライ語って、もしかして並行宇宙の共通言語なのかしら?
バベルの塔の崩壊前は、世界中が皆同じ言語を使っていたらしいし…。
そんなことをふと考える由理子だった。
「私の名はケクロプス。例え心の奥底でも、キサマのような下等な生き物に、宇宙トカゲなどと思われるのは心外だな。」
「あら、ごめんなさい。でもそんな下等生物に、アナタは❝生殺与奪の権❞を握られているのよ?」
由理子は少しイラっとして皮肉を言ってしまった。
「そもそもアナタが、最初からこの方たちに、素直に話をしないからいけないのよ。反省なさい。」
由理子が畳み掛けるように言う。
「悪かったよ。こちらも色々と急なことで混乱していたのだ。だが、今はなら冷静な判断ができる。」
ケクロプスはそう言った。
「私はわが故郷を脱出する時に、確かに隕石群が降り注ぎ、惑星が崩壊するのを見た。だが、外宇宙へ出てから浦島効果を使って、2万年後の太陽系を確認しに来た時には、何故かこの惑星が無事に存在していたのだ。そして、ここに来る途中で、船の調子が悪くなったこともあって、取り敢えず、自分の城があった元の座標に不時着したのだ。」
彼は堰を切ったように喋り出した。
「…だそうですよ?」
由理子はナーガ王の方を見た。
「事情は分かった。拘束を解こう。」
彼はそう言うと、腰のベルトの左側に着けた装置を、ナニやらいじっていた。
やがて、それまでケクロプスの周りに在った、大きな透明な立方体が、消えてしまった。
やはりアレはガラスなどではなく、何かしらの電磁的な防壁だったようだ。
「ありがとう。お陰で敵対勢力紛いの、誤解が解けたようだ。」
ケクロプスは言った。
「どういたしまして。」
なあんだ。ちゃんと礼儀正しく出来るヒトじゃないの。由理子はそう思った。
「次に我々の取るべき行動は…」
ナーガ王が口を開く。
「…取り敢えず、それぞれの時間軸に戻って、紀元前2万年に異常が無いか、確認ですね?」




