③ 依頼の承諾
「…ただ彼が、精神を閉ざす前に、気になることを心の中に思い描いたのだ。」
ナーガ王が話を続ける。
「なあに?」
「…地球文明の崩壊。」
「えっ!?」
由理子ミケーネも同時に聞き返した。
「だから我々は、何が何でも、彼の胸の内の記憶を、引き出さなければならない。この星の危機に関わることならば、余計にな!」
それまで冷静に語っていた彼だったが、言葉の最後で、初めて感情を露わにした。
「…大体分かったわ。良いわよ。爬虫人類の世界に行きましょう。」
「おい、おい、ユリコ。正気か?」
慌ててミケーネが止める。
「でもその前に、私の雇い主であるサン・ジェルマンに許可を貰って、鷹志さんに行ってきますのキスをして、兄の真田雪村に連絡をさせてちょうだい。」
「いいとも!本当に来てくれるのなら、それでいい。」
ナーガ王はとても安堵したようだった。
そして彼女は宣言通り、階下からサン・ジェルマンと杉浦鷹志を呼び出し、それぞれ許可を貰い、キスをした。
鷹志はとても心配そうだったが、サン・ジェルマンは全て予定通りのような顔をしていた。
まったく、異世界の歴史まで、全て御見通しなのだろうか?底知れないオジサンだわ。由理子はそう思った。
さらにその後、彼女は腕のマルチデバイスの、通話機能を使って、雪村を呼び出した。
すると、電話を切るや否や、彼は店内に瞬間移動して来た。
「やあ、ユッコ。久しぶり。元気だった?それに鷹志くんに、サン・ジェルマンさんに…カワイイ猫ちゃんに…蜥蜴男?」
「ああ、そちらが、さっき電話で説明した、猫族のミケーネ王子と爬虫類族のナーガ王よ。」
「ああ、これは失礼しました。僕は真田雪村。由理子の兄です。どうぞ宜しく!」
そう言いながら、彼はフランクにも猫王子と蜥蜴王に握手を求めた。
「…随分と怖い物知らずな兄上なんですな?」
ナーガ王が不思議そうに言う。
「実は今日まで、彼は色々と特殊な経験を積んで来ていまして…それに三次元世界で、チカラを完全解放した彼に敵う存在は…恐らく皆無なんですよ?」
そう捕捉説明したのはサン・ジェルマンだった。
「ほう。それはまた、聞き捨てならないなあ。是非一度お手合わせを…おっとイケナイ。つい、昔のクセが…。」
ナーガ王は一人でノリツッコミをしていた。
それには構わず、サン・ジェルマンは話し続ける。
「…ですから、彼女の人選は正しいのです。それはこのサン・ジェルマンが保障致します。」
「伝説の、サンジェルマンの名に賭けて、か。まぁ良いでしょう。彼女がお共を何人連れていても構いません。来てくれさえすれば。」
「じゃあ、決まりね?お兄ちゃん、早速出かける支度をしましょう!」
二人は準備のために一旦エレベーターで降りて行った。
しかし直ぐに用意が済んだらしく、戻って来た。
ただエレベーターから降りて来た時には、三人になっていた。
もう一人は村田京子だった。
「今、下で聞いたんだけど、なかなか楽しそうなお話ね。私も一枚噛んで良いかしら?」
彼女はサン・ジェルマンに尋ねていたのだった。
「ええ、良いですとも。たまには大好きな雪村君とのデートを楽しんで下さい。前回の騒ぎの時は、すっかり蚊帳の外でしたものね。」
彼は太っ腹にもそう行った。
「度量の大きな旦那様で助かるわあ。」
今日も黄色いワンピースを着た彼女は、そう言いながらとても嬉しそうだった。
いや、否定せぇへんのか〜い!と由理子は心の中でツッコミを入れた。
テレパシーで、ソレが筒抜けなミケーネとナーガは、顔を見合わせて苦笑したのだった。




