㉙ 真打ち登場?
「ねえ、サン・ジェルマン。」
「なんだい?雪子さん。」
「私はまた、自分の夢に一歩近づいたわ。」
「そうですか。ソレはなによりですな。」
「アヌンナキたちは、きっとイイ戦力になるわ。」
「そうだとイイですね。」
「私、いつかきっと、この三次元世界を、四次元人から自由にしてみせるわ。」
「…その時には、不肖この私めも、助太刀いたしますよ。」
「それは心強いわね。きっとよ?」
「…御意。必ずや。」
サン・ジェルマンは、まるで武士みたいな返事をした。
ちょうどその時、それまで隣のテーブルで、杉浦鷹志とイチャついていた由理子が、声を上げた。
「あれ?誰か戻って来たのかしら?」
彼女に言われて皆が注目すると、エレベーターの電光表示が、一階から二階、三階と上昇している。
「ああ、それなら…。」サンジェルマンが何か言いかけた時、エレベーターの扉が開いて、とある人物が降りて来た。
アタマは黒髪のショートヘアー。
顔には丸いフレームの眼鏡をかけている。
体型は小柄で痩せ型。
上着はブルーのチェック柄のブラウス。
ボトムは紺色のストレートジーンズ。
背中には黒いリュックサックを背負っていた。
まるでそれは、よくコミケで見かける、オタク男子のスタイルそのものだった。
それは、満を持しての"真田香子"の登場だった。
雪子と由理子にとっては、まさに"ウワサをすれば"である。
真田香子は、真田雪村の妹で、真田由理子の姉である。
このシリーズを、途中から読み始めた読者諸氏にとっては「誰、ソレ?」といったところだろう。
それもそのはず。彼女はシリーズ第1巻に、さも意味有り気に登場して依頼、物語の表舞台には、ほとんど関わって来なかったのである。
ただ、彼女自身、全く何も知らずの蚊帳の外だった訳では無かった。
それは頼みもしないのに、電話を始めとするあらゆる手段を使って、由理子が逐一、様々な事件や冒険について、面白可笑しく報告を入れていたからなのである…もっとも、そんな手間をかけて貰わなくても、ある程度の状況を把握するチカラが、彼女には備わっているのだが…。
しかし、彼女は堅実な性格である。
彼女は地に脚が着いた生活を望んだ。
カネにもならない冒険譚など、クソなのである。
いつも、どこかボウっとしていて、雪子に誘われると、ホイホイついて行く雪村や、いつまでも定職にもつかずに、怪しいカフェでコスプレバイトをしている由理子のことが、自由でウラヤマシイ…じゃなくて、許せなかった。
彼女は、国立大学の教育学部国語科を卒業すると、すぐに豊橋市の公立小学校の教諭になった。
憧れの教育公務員である。
勤務実態は確かにブラックだが、真面目に働いてさえいれば、安定した給与と福利厚生が約束された業界なのだ。
そもそもこの世に、楽して儲かる仕事など、無いのである…というのが、彼女の持論だ。
根無し草のような、ローリングストーンのような生活に、憧れが無いと言えばウソになる。
しかし、そんなモノは、小説とか、マンガとか、アニメとか、ゲームとか、そういったフィクションの世界で楽しんだら充分なのだ。
若いウチから、ちゃんと老後に備えておかなければ、人生詰むのだ。
兄にも妹にも、機会があるたびに、口酸っぱくそう言って来たが、最近では諦めてしまった。
だからせめて自分だけでもと、今日この日まで、ただひたすらに、堅実に頑張って来たのである。




