② 助太刀を名乗り出る
「それにしても、一体全体どうしたのよ?随分慌てて来たみたいだけど…。」
由理子が当然の疑問を尋ねる。
「実はちょっとした話を小耳に挟んでな…。」
ミケーネが語る。
「鰐王セベク以外の、何処かの爬虫類族の王が、どんな動物種族とも話せるニンゲンを、探していると言うんだ。なんでも何かの通訳にしたいと言うことだった。そして、どこからかキミの噂を聞きつけたらしい。」
「ああそれは、あの時スフィンクスの前で、皆と語り合ったのがまずかったのかもしれないわねえ。」
「連中のやり口は、毎度紳士的とは言えないモノだから、私が心配して飛んで来たという訳さ。」
「あら、ありがとう。優しいナイトさん。」
「ユリコはハダカ猿族としては、上等な方だからな。それに、この間の恩もあるし…。」
「それにしても、アナタたちって、易易と並行宇宙を越えて来るのね?」
「まあそこが、文明レベルの差かな。並行宇宙を旅するためには、キミたちの知らない、もう一つの座標が必要なのさ。」
「…それは、教えてくれたりしないのかしら?」
「ヤメといた方がイイかな。お互いの幸せのためにね。」
「あら、そう。残念ね。」
「何しろ、キミたちの世界には、あのサン・ジェルマンがいるしな。それにあの、ユキコとか言うメス猿も厄介そうだし…。」
「メス猿じゃなくて、ニンゲンね。ちゃんと覚えてよ。」
「ああ、コレは失礼した。何しろ長年言い続けて来たので…悪気は無いんだ。」
「でも、私を通訳に使いたいだなんて、一体相手は何者なのかしら?」
「さあな。それが分かれば、苦労は無いのだが…。」
「そもそもアナタたちって、テレパシーが使えるんでしょ?じゃあ、言葉なんて必要無いじゃない。」
「…細かいニュアンスを伝える必要があるなら、言葉を使うのだ。後は、よほど我々とかけ離れた生物と遭遇したとか…?」
「ふ〜ん。ヘブライ語が通じない相手なのね?」
「多分そうだ…なるほど、よくよく考えると、不審な点が多いな。」
「…そういうことだ。」
その時、出し抜けに彼等二人の背後から、第三者の声がした。
由理子が、慌ててそちらに顔を向けると、そこには、初めて見るタイプの爬虫人類が立って居た。
綺羅びやかな身なりの、そのトカゲは口を開いた。
「ミケーネ王子、はじめまして。そちらはユリコ殿とお見受けするが…?」
「…そうよ。アナタはだあれ?」
「コレは失礼した。我が名はナーガ王。インダス川の畔の王国から来た。」
「…へえ。まさか王様が、わざわざお供も連れずに、直々に並行宇宙の時空を越えて、私を迎えに来たと言うの?」
「その通りだ。二人が話し合ってくれたお陰で、説明が省けて助かった。」
「どうしても、私を通訳にスカウトしたいのね?」
「そうだ。先日、我が国に、ちょっとした客人を迎えたのだが、どうにも話が噛み合わない。彼の見た目は、キミたちニンゲンと、我々爬虫人類の、中間のような姿をしているのだ…何とかチカラになってはくれまいか?」
「その口ぶりだと、途中までナニかを聞き出せたけど、その先がよく分からない…とか?」
「…なかなか鋭いな。流石は真田雪子の妹だ。ハッキリ言うと、彼は精神防壁を張れるようだ。その先は、我々には見せないつもりらしい。」




