⑪ 役目を終えて
ナーガ王の城に戻った一行は、翌朝、まずケクロプスから帰ることになった。
彼の船は、あらかじめナーガ王のスタッフによって修理が完了しており、いつでも出発出来る手はずになっていた。
「皆さんには、色々とお世話になりました。」
彼はすっかり礼儀正しくなっていた。
「特にニンゲンの彼には、どれだけ礼を尽くしても、キリが無い程ですが…。」
残念ながら、彼…雪村は、まだ目覚めていなかった。
「…アナタ方から、後程よろしく言っておいていただけたら、助かります。」
「任せといて!」
由理子が元気に答えた。
「…そして、ナーガ王。」
「何かな?」
「素敵なチームを紹介してくれた事、感謝する。」
「なんのこれしき。同じ爬虫類族のよしみですよ。」
「皆さんには、いつかきっと、何らかの形でお礼がしたいが…ちょっと何年先になるか分からないな。」
そう言いながら、彼は苦笑した。
「期待してるわ。私は一応、不老不死だから、サン・ジェルマンと一緒に、気長に待ってますよ。」
京子が言った。
「じゃあ、皆さん、どうかお元気で!」
彼はそう言って、船内に吸い込まれた。
まるで小さいピラミッドのような見た目の、彼の宇宙船は、そのゴールドの船体を光らせながら、音も無く上昇し、空の彼方へ消えて行った。
「キャップストーンを作ったの、彼等だったりしてね?」
その様子を眺めながら、由理子がポツリと、笑えない推理を披露した。
その核心をついた当てずっぽうを聞いて、隣に居た京子は、目を剥いたのだった。
更に翌朝、雪村がようやく目覚めたのを待って、ミケーネの船で残りの一行が、ニンゲンの世界線に帰る事になった。
「ミスター雪村、本当にありがとう。」とナーガ王。
「いえ、いえ。大した事はしてませんよ。」
と謙遜をする雪村。
「ケクロプスもとても感謝していましたよ。わたしもまた、いつか恩返しがしたいものです。」
「まあ、お構いなく。気が向いたらで結構ですよ。その際は、是非、サン・ジェルマンへお願いしますよ。」
彼もまた、これ以上、4次元人の注目を集めたくないのである。
その後は皆で船に乗り込み、つつがなく出発したのであった。
「それにしても、お兄ちゃんは、どんどんニンゲン離れしていくわね。」
今更のように由理子が言った。
「え〜、そうかなあ。」
いつものボンヤリ返答の雪村。
「いや普通、惑星を丸ごと一つ、300光年先まで瞬間移動させられないでしょ?いったい、どうやったのよ?」
「う〜ん、何と言うか、イメージの問題なんだよねえ。あらかじめケプラー1649Aと、その周辺の情景を頭の中に描いておいて、目の前の惑星を、両手でこう掴んで、こう!」
彼は、由理子に解り易くなればと、まるで目の前のバレーボールを抱えて、すぐ隣のスペースに移動させるような動作をして見せた。
「なに、それ?バカリズムのフリップ芸みたい。」
そう言って、彼女は笑った。
「まったく、理解に苦しむ超人ぶりだな。キミが敵でなくて、ホントに良かったよ。」
ミケーネも笑った。
「由理子にも、なんだか済まないことをしたね。助けに行ったつもりが、また助けられた…。」
ミケーネがそう言った。
「気にしない、気にしない。動物は皆ファミリーよ!」
由理子はいつも底抜けに明るいのである。
そんな船内の様子を、京子は静かに見つめていた。
結構大掛かりな事になっちゃったわね。帰ったらサン・ジェルマンに、色々説明しなくちゃ。そんな事を考えながら、彼女は微笑んでいたのだった。




