⑩ 超人の証明
「散り散りバラバラになったお仲間を集めて、300光年先まで行っていただけたら、そこに❝アナタ方の地球❞が有るはずなのです。ウラシマ効果で2万年調整できるなら、300年くらい朝飯前の事ですよね?ああ、そうそう、万が一クレームが有る場合は、また300光年戻って来て言って下さいね?でも僕の寿命は、せいぜい残すところ60年。不老不死ではないので、その時にはもう、この世に居ませんけどね。」
そんなジョークとも何とも言えない事を、笑顔で雪村は言った。そして…。
「何だかとても疲れました。ちょっと休憩させて下さい…。」
そう言い終わるや否や、雪村は仰向けに倒れ込んだ。
その気配をいち早く察したのであろう。
京子が後ろからサッと彼を抱き留めて言った。
「よく頑張ったわね。流石、私の雪村よ。ゆっくりお休みなさい。」
そして少し涙ぐみながら、そのまま雪村を抱きしめた。
それきり暫くの間、皆、無言だった。
雪村の成し遂げたことが荒唐無稽すぎて、誰もが俄かには信じられなかった。
しかしミケーネの船には、高性能の望遠鏡が備えられていた。
それを使ってすぐに、ミケーネは白鳥座を覗き、ケプラー1649Aの周りを公転する、青い惑星があることを確認したのだった。
「そんなバカな…ウソだろう?…ホントにやったんだ…。」
そう言うミケーネの顔は、喜びや賞賛や驚きを越えて、一種の恐怖の色を見せていた。
「やっちゃうヒトなんですよねえ、ウチのお兄ちゃんは。」
由理子が冗談めかして言うが、船内の空気は一向に和やかにはならない。
「彼は一体何者なのですか?」
そこで初めてナーガ王が口を開いた。
「フェニックスのチカラを持つ男よ。」
京子が答えた。
「伝説の鳥族の首長に、昔そんな存在が居たと聞いたことはあるが…彼はただのニンゲンだろう?」
ミケーネも首を捻る。
「色々な体験を経て、彼はただのニンゲンではなくなったのです。」
京子が言う。
「まあでも、一番大きな要因は、4次元人に憑依された経験かな。」
由理子も補足する。
「皆さんが警戒したり恐れたりしている、真田雪子は彼の姉であり、彼を構成する精神体の、ほんの一部でもあるのです。彼から生まれたのが雪子であり、幼い頃から、彼を導き育てたのも雪子なのです。そしてその事実も、彼のパーソナリティの大事な部分なのです。」
京子が言う。
「そこらへんは、少しややこしいのです。ニワトリが先か、タマゴが先か、に近い論争になります。」
と由理子。
やはりよく分からない、と言った表情のミケーネ、ナーガ王、ケクロプスであった。
まあ、分かるわけがないのである。
「ああ、それから、もしも今回の事を、孫子の代まで語り伝えるなら、サン・ジェルマンの手柄、ということにしておいて下さい。雪村君が4次元人たちに目を着けられたら、面倒なことになるので。」
最後にそう言って、京子が笑顔で話を締めくくった。
「そろそろこの宙域を離脱しますね。のんびりしていると、こっちが隕石にヤラれますから。」
ミケーネにそう言われて、皆、我に返った。
「そうだな。帰るとしよう。」
ナーガ王がそう言うのを潮時に、一行の船は元の爬虫類族の世界に帰ったのだった。




