① 再会する二人
それは1990年4月1日の15時を回ったころ。
その日は日曜日だと言うのに、レストランのシフトに入っていた真田由理子は、とても暇であった。
彼女は今日も、お気に入りのメイド服を着て、頭には赤いウィッグを着けている。
「あ〜あ。せっかく今日も、気合いれてメイクして来たのになあ…。」
手持ち無沙汰な彼女は、テレビ塔の亜空間レストランの窓に持たれかかり、何気なく左腕の時空転移デバイスをいじっていた。
すると突然、ピッピッピッピッ…とアラームが鳴りだし、その音は次第にヤバいくらい大きくなって行った。
慌てた由理子は、何とか音を止めようとしたが、デバイスを振っても叩いても無駄だった。
彼女が諦めて、階下のラボに居る、杉浦鷹志を呼び出そうとしたその時、音が止むとともに、目の前にとんでもないモノが出現した。
それは、とても大きな、ソロバンの珠によく似た形の…認めたくないけど、所謂、空飛ぶ円盤にしか見えない、懐かしい物体だった。
あまりにも突然の事に、彼女が呆気に取られて見ていると、下部のハッチが開き、これまた懐かしい姿が現れた。
「ユリコ!良かった、無事だったか!」
彼女の顔を見るなりそう叫んだのは、やはり一匹の白猫王子のミケーネだった。
因みに由理子は、幼い頃からずっと、色々な動物たちと意志の疎通ができる、特殊能力者なのである。
その上彼女は、雇い主のサン・ジェルマンの進めで、異世界人との共通言語であるヘブライ語を、習得済みであった。
「…ええ、無事よ。でももう少しで、アナタの船に、ペシャンコにされるところだったわ。」
彼女にそう言われて、彼があらためてよく周りを見てみると、自分の船は、レストラン店内のちょうど真ん中に、天井までギュウギュウになって鎮座していた。
そしてそのせいで、室内のテーブルやイスの幾つかはペシャンコになったり、バラバラに砕けたりしていたのだった。
「ああ、コレは済まない。実はキミの身体情報を手掛かりに、移動後の居場所をトレースして、並行宇宙から急いで時空転移してきたのだ。まさか室内に居るとは、考えもしなかった。」
「…もう、サン・ジェルマンに怒られるわよ。後で必ず弁償してよね?」
「お安い御用だ。ただこのままじゃ、いかにも邪魔だね?」
「もちろん、そうね。何とかできるの?」
「ちょっと待っていろ。」
彼はそう言うと、船内に戻り、計器を確認していたようだった。
「よし、20m程直下に丁度良い空間を見つけたから、そこに船を転送する。」
外に出た彼は、リモート操作で船だけを一瞬でその場から消して見せた。
多分、地下駐車場に移動させたのだろう。
由理子はそう推察したが、確かめようが無かった。
どうか、他のクルマが、ペシャンコになってませんように。彼女はそう祈るばかりだった。
「後は家具の始末だったな?」
彼は腰に付けていたガジェットを手に取り、何やら操作すると、辺りに散らばるイスやテーブルの残骸に向けて、そこからグリーンのレーザーのようなモノを照射した。
するとどうだろう。
そこら中に散らばっていた残骸が集合し始め、ついには、全て元通りのテーブルとイスの形になったのだ。
「コレは、個別に物体の時間を巻き戻す光線だよ。有機物には使えないけどね。」
その一部始終を見ていた由理子も、コレには流石に驚かざるを得なかった。
「充分に発達した科学のチカラは、もはや魔法と区別がつかないのだよ。」
そんな彼女に向かって、得意気に語るミケーネなのだった。




