ハイタッチ
「――いやーひっさしぶりだよなここ! すっげえテンション上がってきた!」
「マジそれ! もう二週間も来てなかったし!」
それから、数十分後。
そう、満面の笑顔で会話を交わす男女生徒達。……あれ、二週間って久しぶりなの? 僕だったら一年前でもわりと最近なんだけど。
ともあれ、僕らがいるのはボーリング場――地味で陰キャラでコミュ障の僕には、本来まるでご縁のないであろうレジャー施設にいるわけでして。……うん、僕の場違い感が半端じゃないね。まあ、今更だけども。
「そんじゃ、俺からいくわ。バッチリストライク取ってきてやるからな!」
「んなこと言って、ガーターだったらマジ面白えよな」
「ほんと、マジ受ける」
「アホかお前ら。その耳かっぽじってよく見とけよ!」
「……いや、耳は関係ねえだろ」
その後、友人達から揶揄われつつレーンへと進んでいく男子生徒、船橋くん。それでも、反論しつつも楽しそうな船橋くんの様子からも改めて仲の良さが窺えて……うん、いいなぁこういうの。
そして、僕といえば……うん、もちろんその輪に入っていけるはずもなく。まあ、ほとんど話したこともない僕が無理に入ったところできっと微妙な空気になるだけだし、ここはなるべく控えめに――
「……ほら、表情が固いって。同じクラスメイトなんだし、もっと気楽に楽しもうぜ」
「……瀬那くん……うん、ありがと」
すると、ポンと僕の肩に手を置きそう告げてくれる秀麗な少年。……気楽に、か。僕にとってはなかなかの難題なんだけど、それでも……うん、ありがと瀬那くん。
「――おっし、見たかお前ら!」
「……おお、マジかよ」
「いやいや、どうせマグレでしょ」
「おいおい、負け惜しみはみっともねえぜ?」
「いや、まだ投げてもないし」
それから、ほどなくして。
ガッツポーズと共に、満開の笑顔で戻ってくる船橋くん。結果は、見事にストライク――うん、有言実行。すごいなぁ船橋くん。
それから、次々とハイタッチを交わしていく船橋くんのみんな。……うん、なんだか僕までほのぼのと――
「ほら、高崎」
「……へっ? あっ、はい……」
すると、僕にも笑顔で掌を見せる船橋くん。……えっと、僕も? いいの? ……いや、ここで僕だけスルーするのも不自然だからかな? ともあれ、戸惑いつつもそっと手を出しパシッと……ふぅ、緊張した。……大丈夫かな? 汗とかかいてなかったかな?
「――よっし、なんとかスペア!」
「おお、やるなぁ芽生」
「まあ、俺ほどじゃねえけどな」
「いやあんたのはマグレでしょ? あたしのは実力だから」
それから、数分経て。
Vサインと共に、嬉しそうな笑顔で戻ってくる女子生徒、笹本さん。結果はスペア……うん、すごいなぁ笹本さん。
そして、船橋くん同様みんなとハイタッチを交わしていく。そして、僕の前へと来て――
「……別に、嫌ならいいよ。無理しなくて。あたしだって、好き好んであんたとしたいわけじゃないし」
「……あ、その……」
すると、一向に僕が応じないのを見てか手を引っ込める笹本さん。その表情は、ありありと不服の念を湛えていて……うん、そうなるよね。みんなが笑顔でハイタッチをしている中、僕一人がこんな失礼な態度を取ったのだから。
それでも、その後も和気藹々とボーリングを楽しむグループのみんな。そして、そんな状況にホッと安堵を覚える僕。……いや、ホッとしてちゃダメなんだけど……その、ごめんなさい、笹本さん。
「……その、ほんとにごめんね、瀬那くん」
それから、数時間後。
黄昏に染まる帰り道にて、隣を歩く美少年へとそう口にする僕。もちろん、さっきまでのボーリングに――より正確に言えば、笹本さんとのあの件に関してで。
『……いや、あれはねえよなマジで。いくら普段は関わりないからって、あの流れでハイタッチ拒否るとかノリが悪いとか以前に人としてどうかしてるだろ』
『マジそれ。瀬那が声かけたから今回は何も言わなかったけど、マジでもう二度と一緒に来たくないし』
一度バラバラになった休憩中、ふと耳に届いた声。今日、一緒に来ていたクラスメイトの男子生徒、船橋くんと笹本さんの声で。でも、いったい誰のことを……なんて、とぼけても仕方がない。船橋くんの言葉通り、笹本さんとのハイタッチに応じなかった僕のことで。……うん、そうなるよね。自分でも自身に嫌悪を感じてるくらいだし。……それでも、あの時どうしても手を前に出せなくて――
「……謝るのは、俺の方だ。あいつらみんないいヤツらだし、仲良しなってほしいと思って今日お前を呼んだんだけど……悪い、余計なお世話だったな」
「……っ!! そんな、瀬那くんが謝ることじゃない!」
すると、言葉の通り申し訳なさそうに微笑み告げる瀬那くん。だけど、当然のこと彼が謝る必要なんてどこにもない。僕のせいでみんなが、瀬那くんが――
「……でもな、逢糸。悪いが、俺はまだ諦めたわけじゃない。今日のは……まあ、ちょっとすれ違ったってだけの話だ。これからお前の良さを知ってくれれば、いつか絶対に仲良くなれる。でも……まあ、今日みたいな強引なことはもうしないけどな。お前も困るだろうし」
「……瀬那くん」
すると、さっきとは一転、太陽のような笑顔でそう口にする瀬那くん。……ほんと、なんで? なんで、そんなことを言ってくれるの? 君の友達に酷いことをしたこんなどうしようもない僕に、なんで――




