告白
(――あの、朝川くん! その……えっと、良かったら私と――)
茹だるような暑さに嫌気が差す、ある日のお昼休みにて。
日傘を差しつつ一人中庭へ向かっていると、体育館の裏の方から微かに鼓膜を揺らす声。恐らくは、女子生徒の声で。聞いたことのない声なので、きっと他のクラス――あるいは、他の学年の生徒だろう。……いや、そうとも限らないか。そもそも、きちんと声で判別できるほどクラスメイトに対する関心もないし。ともあれ、微かに聞こえたその名前は……うん、やめよ。流石に無粋だと自分でも思うし。
「――それでさ、逢糸。昨日、衝撃の曲に出逢ったんだよ。こう、ナイフのように心にぶっ刺さる曲にさ!」
「……そう、なんだ。うん、だったら僕も聞いてみようかな」
「おお、絶対だぜ! それで、タイトルは――」
その日の放課後のこと。
帰り道、身振り手振りを交えつつ朗らかに話す秀麗な少年。三年一組の中心的な男子生徒、朝川瀬那くん――遥か彼方に浮かぶ太陽のようなその笑顔が陰キャラの僕にはあまりにも眩しく、思わず目を逸らしてしまいそうで。
その後も、和やかに会話を交わし家路を歩いていく僕ら。いつものことだけど、瀬那くんが会話をリードしてくれるので本当に助かる。……それにしても、コミュ障の僕とですらこうして会話を成り立たせることができるのだから本当にすごい。まるで自分のコミュ力が上がったような気さえするけれど、もちろんそれは錯覚――瀬那くんじゃなければ、きっと僕はロクに言葉も発せなくて。……ところで、それはそれとして――
「……ねえ、瀬那くん。もしかして……今日、告白されてた?」
ふと、そう尋ねてみる。そして、直後に後悔の念が押し寄せる。……馬鹿か、僕は。なんで、こんな無粋極まりない質問を――
「……そっか、知ってたんだな」
すると、淡く微笑みそう口にする瀬那くん。そこに気を悪くした様子はないことに、ひとまずホッと安堵を覚える。……まあ、あくまで見た感じ、ではあるけども。
「……だったら、俺の返事も知ってるよな」
「……うん、ごめん」
「……いや、なんで謝んだよ」
その後、瀬那くんの問い――というより確認に小さく頷き謝る僕。すると、彼は呆れたように微笑んで……ほんと、優しいなぁ。
そして、彼の言うように返事を知っていて。聞いちゃいけないと分かってはいたけど……それでも、どうにも気になりその場に立ち止まってしまって……うん、言い訳にもなってないね。
「……でも、瀬那くん。あれって、本当?」
そう、躊躇いつつ尋ねてみる。いい加減にしろと自分でも思うけれど……うん、これだけ。あとこれだけ、どうしても聞きたくて。と言うのも、瀬那くんの返事の内容は――
「……ああ、本当だよ。俺は、女と付き合う気は微塵もない」




