決意
「――今日もよろしくね、逢糸く……ん? どうしたのかな?」
それから、数日経て。
高崎家の小さな居間にて、いつものごとく朗らかな笑顔で挨拶をする清麗な女性。だけど、不意にその言葉が止まる。まあ、それもそのはず……僕が、何か言いたげに彼女をじっと見ているから。……うん、正直怖い。怖いけど……それでも――
「……あの、晴香さん。本当に、本当に申し訳ありませんが……もう、終わりにしたいんです。僕らの、この歪な関係を」
たどたどしい口調ながらも、どうにか最後まで伝え終える。とは言え、いくぶん漠然とした言い回しになってしまったけど……それでも、当事者であるからして伝わらないはずもないだろう。
家庭教師――と言うのは、あくまで建前。主に、彼女のご家族に対する建前で。実際は――晴香さんと僕の両親との間で交わされた、僕という商品を媒体とする契約で。
『――そうだ、逢糸。明日から、お前に家庭教師の人が来るから』
『先方をガッカリさせないよう、しっかり頑張るのよ』
『…………へっ?』
最初は三年前――中学二年生の頃。卒然、両親からそう言われ驚いた。と言うのも、僕ら高崎家はお世辞にも裕福とは言えな……いや、はっきり言ってしまえば貧乏――いったい、いつの間にそんな資金を備えていたのかと。
それでも、その時はひとまず納得した。貧しいながらも、僕のためにそのための資金を備えてくれていたのだと。そんな愛情深い両親に申し訳なく、そしてありがたく思った。
――そして、翌日のこと。
『――あれ、何してるの逢糸くん。そんなの出してないで早く脱ぎなよ。……あっ、それとも脱がしてほしいタイプ?』
『…………えっ?』
両親の期待に応えるべく、勇んで勉強道具を用意したのも束の間、思いも寄らない晴香さんの言葉に唖然とする僕。…………えっ、脱ぐ? いったい、何のこと?
だけど、そんな僕の疑問を他所に次々と自身の服を脱いでいく晴香さん。未だ唖然……そして、恐怖に震える僕の服も次第に脱がされ、そして――
――その後のことは、もうほとんど覚えていない。
その後も、彼女は度々高崎家を訪れた。家庭教師の先生として、度々我が家を訪れた。そして、当然のごとく両親は不在で。
……もう、流石に理解できた。これが、僕の役目なのだと。少しでも高崎家を支えるべく、僕に課された役目なのだと。……うん、そう思えばなんてことはない。むしろ、僕なんかの身体を差し出すだけで役目を全うできるのならたいそう勿体なくありがたいくらいで。……だけど――
『――俺は、絶対にお前を嫌いになったりしないし、絶対に離れたりしない』
そう、この上もなく真摯に告げる秀麗な少年。……ありがとう、瀬那くん。こんな穢れた……それも、まさに直前、あんな酷いことを言い放った僕なんかに。……そして……ごめんね、父さん、母さん。……だけど、僕はもう――
「…………はぁ?」
「…………へっ?」
卒然、思考が停止する。……えっと、なんで? なんで、そんな怖い声を……そんな、怖い表情でこっちを見るの?
「なめてんの? あんた。知ってると思うけど、こっちはあんたの両親と契約してんの。そして、もう金銭も渡してんの。あんたの都合でキャンセルとか効くわけないでしょ」
「……あ、その、お金ならあります! なので、僕からお返ししま……あ」
「はぁ? 要らないわよ、そんな端金。金銭なんていくらでもあんのよ。あたしに貢いでくれる男なんていくらでもいるから」
慌ててそう伝えるも、差し出した手を鋭く弾く晴香さん。バイトで貯めた、十数枚の紙幣を掴んだ手を。よもや、僕なんかの身体に大金を払っているとは思わないものの、こういう相場は全く知らないので一応多めに用意したつもりなんだけど――
「……っ!!」
直後、背筋が凍る。卒然、僕の股間――正確には、陰茎をガシリと掴まれたから。逃げなきゃ――そう思うのに、身体がピクリとも動かない。その間にも、一度手を離し慣れた手つきでさっと僕のベルトを外す晴香さん。そして――
「――ほら、こんなに反応しちゃってる。いつもみたいに、お姉さんとキモチイイことしよ?」
「……いや、あの、その……」
そんな言葉と共に、僕の性器を――ズボンも下着も下げられ剥き出しになった僕の陰茎を愉しそうに弄る晴香さん。そして間もなく、彼女自身のスカート――次いで下着を脱ぎ去り、そして――
「――ほら、挿れて?」
そう言って、自身の性器――膣口を指差す晴香さん。その目はさながら、獲物を目にした狩人で。そんな彼女に対し、僕は――
……嫌、だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――
「――よう、お楽しみのところ悪いな」
「…………へっ?」




