衝撃
「――なあ、どういうことだよ瀬那!」
「…………ん?」
それから、一週間ほど経た朝のこと。
踊り場の方から、不意に響いた大きな声。恐らくは男子生徒の声だろうけど、特に聞き覚えは……いや、あった。瀬那くんと同じ、野球部の選手の声だ。そして、その対象はどうやらその瀬那くんのようで。……いや、でもひょっとすると同じ名前の別人という可能性も……いや、多分ないかな?
ともあれ、悟られないよう気配を消しつつ踊り場の方へと近づいていく。鬼気迫る、なんて言ったら大袈裟かもしれないけど……でも、何やらただ事でないことは確かで。なので、野暮だとは知りつつもせめて理由だけでも――
「………………へ?」
「――それでさ、逢糸。昨日、思わず衝動買いした漫画がマジでめちゃくちゃ面白くてな! だから、今度お前にも――」
「……ねえ、瀬那くん」
「……ん? どうした逢糸」
その日の放課後にて。
青空の広がる帰り道にて、隣で朗らかに話す瀬那くんの言葉を思わず遮る僕。……しまった、つい。でも、もう止めちゃったし……それに、そろそろ聞かなきゃいけないし。
そもそも、今こうして一緒に歩いていることがこの上もなく不自然で。と言うのも……いつもの通り野球部は練習があるので、本来であれば瀬那くんが今ここに――僕の隣にいるはずがないわけで。……なのに、ここにいるのは――
「……ねえ、瀬那くん。なんで、辞めちゃったの? 野球部」
そう、躊躇いつつ尋ねてみる。そして、改めて思い起こす。あの時、踊り場から響いた男子生徒の発言を。
『――なんで急に辞めちまったんだよ、野球部! それも、俺達に何の説明もなしに!』
――本当に、衝撃だった。しばらく、その場に立ち尽くしたまま動けなかったくらいに。……そして、嘘だと思いたかった。だけど、瀬那くんがただ申し訳なさそうに謝っていたことからも事実であることは間違いなく。
「……まあ、ちょっと理由があってな。でも、お前が気にすることはねえよ」
すると、仄かに微笑みそう告げる瀬那くん。……気にしないわけ、ないんだけど……でも、彼自身がそう言っている以上、今の時点でこれ以上踏み込むことも叶わなくて。




