婆さんに殺された俺、桃太郎に転生して復讐したら、今度は婆さんが桃姫になって鬼ヶ島で兄妹になりました
日本昔話「桃太郎」のパロディ作品です。笑って読んでやって下さい。
ep.1 別れは突然やって来る
むかしむかし、ある村に、気の弱いお爺さんと、気の強いお婆さんが一緒に暮らしておりました。
お爺さんはある日、うっかりお婆さんの機嫌を損ね、夫婦喧嘩となり、抵抗空しく殺されてしまいました。
お婆さんは我に返り、大変なことをしたと慌てふためき、背中に包丁が刺さったお爺さんを担ぎ上げると、いつもの洗濯場へ向かいました。
皆が寝静まった夜、月明かりを頼りになんとか洗濯場に到着すると、川上からどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れて参りました。
お婆さんは何を思ったのか、お爺さんをヒョイッと放り投げると、うつ伏せの状態で、上手に桃の上に乗りました。
桃は何事もなかったように、どんぶらこ、どんぶらこと川下へと流れていきました。
お爺さんの背中に刺さった包丁が、月明かりに煌めきながら、小さくなっていく様子を眺めながら、お婆さんは安心した様子で家へ帰りました。
さて、お婆さんはさておき、お爺さんを乗せた桃は川から海へと流れ出て参りました。
どんぶらこ、どんぶらこ、波を乗り越え、大海原を旅するお爺さんと桃。
お爺さんは桃を上手に乗りこなし、まるで世界旅行を楽しむように、大海原を進んでいきました。もう死んでますけど。
桃は波に揺られながらある島へと流れ着きます。そう、鬼ヶ島です。
桃から生まれることも無く、死んだじじいと旅をした桃太郎……の桃。
その旅は過酷極まりない道中でございました。
桃の表面を見ればおわかり頂けると思います。
上にはじじいの屍がのしかかり、海水を吸って膨張した果肉。
カモメやイルカ、サメやクジラまでもが近づくやいなや退散するほどの悪臭を放ち、じじいを落とすこと無く大海原に浮いた桃は、赤黒く変色し、黒糖まんじゅうのように楕円の形になっていました。
それが打ち上げられた砂浜は、さぞ異様な光景に見えたことでしょう。
鬼たちは恐れおののき、その砂浜には誰も近づきませんでした。
日が経つにつれ、太陽の日差しで桃は乾燥し、ぷっくらしたフォルムも萎んでカッチカチになりました。
え? じじいですか。じじいはサラサラと砂浜に散りました。
残されたのは黒ずんだ血がベッタリとついた包丁が一本。
それに得体の知れない黒い塊だけでした。
ある日、ある鬼が何も知らずに浜辺に釣りをしに現れました。
緑の奴です。
アゴがしゃくれて眠たそうな目つきで、鬼としては迫力に欠けます。
そんな緑が例のブツを見つけます。
「なんだこりゃ? わら人形か? いや色がおかしいべ。ならなんじゃろな?」
みたいなことを言っています。私は鬼の言葉が分からないので、その様子から想像してみました。
緑は首を傾げ、その黒い塊を何度もツンツンしました。そして何か言っています。
なになに? ふむふむ。
「こりゃあ、上等なフンじゃな。伝説の怪鳥『獄炎鳥』のモンじゃったら希少価値が高いべよ、こりゃ殿が喜んじゃうじゃろ」
……たぶん、そんなことを言っているのでしょう。
緑は嬉しそうに、その黒い塊をヒョイと片手で持ち上げました。
そのときです。空中に弧を描く物体が現れ、音もなく緑を急襲しました。
痛ーーーーーーーっ!
緑は顔を押さえて砂浜をのたうち回ります。何が起きたのか訳も分からず、とにかくゴロンゴロン転がりました。
わかりましたか?
そうです。婆さんの包丁が緑に襲いかかったのです。
そのおかげと言いましょうか、桃は海に投げ込まれました。
そして海水を吸収し始めます。
ブクブク、ブクブク。
それはもうたっぷりと。砂漠でオアシスを見つけた冒険家のようでした。
ブクブク、ブクブク。ゴクゴク、ゴクゴク。
もうこれでもかってくらい海水を含んだ桃は、あら不思議。元の桃色に戻りました。
これはもう奇跡です。
アンタッチャブルです。
アンビリーバボーか。
とにかく桃は桃として生き返りました。
そして再び鬼ヶ島へ流れ着いたのです。
そこには緑が仰向けで空を眺めておりました。
さっきまであんなに痛がっていたのに、今はもうじっと空を見上げておりました。
あ! よく見ると、ババアの包丁を手に持っていました。
大きい手で摘まむように包丁を持って空の一点をじっと見つめていました。
ちょっと気になったので私も空を見上げてみました。
あ! 雲だ。モクモクした雲が空に浮かんでいます。あれを見ているのでしょうか。
空の雲、形? モクモクしてるけど……なんでしょうね。
ボキャブラリーが試されますね。いいでしょう。やってやりましょう。
モクモク、フワフワ。モリモリ? ダメだ。全然思いつかない。
ヒントを探します。
緑の目線は……やっぱり雲で間違いない。
緑よ、あの雲がなんだって言うんだい?
あ! なんかしゃべってます。ここは口と表情の動きで推察してみましょう。
ん? う? うま? うまおうあんも? うまおうあん……なんやねん!
いや、待ってください。何かクチャクチャしてますけど、あーんって何か食ってる?
白くてモリモリして食べ物って何だ?
あ、ご飯か!? ご飯! 鬼もご飯食べるんだっけ?
……もういいや、何か思いついたらコメントください。
では、続きます。
ep.2 緑のその後
緑はむっくりと起き上がり、お腹をさすって何か言っています。
グーきゅるるる――
腹ぺこなんですね。そう言えば釣りをする予定でしたね。自炊してるんだ。へぇ……
そこで緑は桃を見つけました。
まるでアメコミ(アメリカンコミックの略)のように首を思いっきり突き出し、目が飛び出しそうな勢いで桃をガン見しています。
と同時にヨダレが牙の隙間から下アゴを伝って流れ落ちました。
はたと手にした包丁に気づくと、桃に近づき取り上げます。そして小さな包丁を器用に使って切り込みを入れた瞬間!
パカン!(1カメ:緑目線、桃に寄った状態から一気に引く)
パカン!(2カメ:緑の後頭部越しに俯瞰したアングルを維持)
パカン!(3カメ:緑の正面から、驚いた表情のアップ)
桃がパックリと割れ、中から元気な赤ん坊が出てきました。
緑は慌ててその赤ん坊を両手でキャッチ。
とっても小さな赤ん坊が今、緑の手のひらの上で元気な泣き声を上げています。
緑は口をあんぐりと開け、その赤ん坊を見つめました。
――約三十分後。
緑はニヤニヤしながら手を皿のようにして赤ん坊を鬼たちの所へ運んできました。
そこにいた鬼たちは、元気に泣く赤ん坊を見て驚くと同時に、その赤ん坊を食い入るように見つめました。
宮殿の奥からひときわ大きな鬼が現れます。
緑は恐れおののき、その大鬼に向けて頭を下げながら、赤ん坊を乗せた手を差し向けました。
大鬼はその赤ん坊を目にするなり、ニッコリと笑いかけました。
するとどうでしょう。あんなに元気に泣いていた赤ん坊は、ケラケラと笑い出しました。
周りの鬼たちも緑もその様子に感嘆の息を漏らします。
そして赤ん坊は大鬼の手に渡されました。
大鬼は赤ん坊の事を自分の子供のように大切に育てました。
赤ん坊はその期待を一身に背負い、グングン成長していきます。
子供ながらに鬼たちと相撲を取ると、全員をうっちゃりで打ち負かし、弓矢を持たせれば遠く離れた的にも百発百中。
槍を持たせればトンと立てて器用によじ登り、クルッと回って地面をたたき割りました。
大鬼はその成長に満足そうに笑顔で頷くと、緑を呼びつけました。
緑は恐縮しながら宮殿の中まで出向きます。
そして大鬼から何かを問われて身振り手振りを交えて答えました。
大鬼はアゴに手を置き首を捻ると、何かを閃いたように手を小槌のように叩きました。
そして大声で「ギゴガギゴゴグゴウゴガゴー!」と叫びます。それに呼応するように鬼たちは叫びました。勿論、緑も力一杯叫びます。
「ウゴガゴー! ウゴガゴー!」
ああ失礼、何のことやらですよね?
ここで私、考えました。赤ん坊は赤ん坊でいいんですけど、子供に成長したら少年? じゃあ大人になったら人間? 呼びづらいですよね。
だからきっとこうです。
大鬼「この子はどこで見つけたんだ」
緑「へい、砂浜にいました」
大鬼「砂浜に赤ん坊が一人で?」
緑「いえ、桃の中から出てきました」
大鬼「桃から出てきた? 本当か?」
緑「はい、本当です」
大鬼「んー……そうだ!」
大鬼「今日からこの子は桃太郎だ!」
みんな「桃太郎! 桃太郎!」
こうして桃から生まれた赤ん坊は少年になった時、桃太郎と呼ばれるようになりました。
その成長スピードは尋常じゃなく、桃太郎はすぐに青年となりました。
そしてある日、大鬼に向かって言いました。
「父ちゃん、今まで育ててくれてありがとう。でも俺、行かなきゃいけない所があるんだ」
大鬼は桃太郎の話を黙って聞きました。
桃太郎の瞳には強い意志が込められたように燃えていました。
話を聞き終えた大鬼は頷いて、家宝の刀を桃太郎に授けました。その目から一筋の涙が流れ落ちます。
桃太郎は刀を受け取ると、大鬼に向かって深々と頭を下げ、「行ってきます」と言い残し、鬼ヶ島を出港しました。
船は帆船。大きな船です。鬼ヶ島はなんともリッチな鬼たちの住む島なんですね。
腰にきびだんごはありません。犬、猿、雉も乗ってません。いるのは緑だけです。
緑は番頭役として乗船しただけです。しかし対岸に着くなり、大型船舶が鬼に乗っ取られたと言って人々は逃げ惑いました。
鬼といっても、間の抜けた顔をした緑だけなんですけどね。
人がいなくなった港に降り立った桃太郎は、緑に伝言を頼み鬼ヶ島へ帰しました。
もう戻る気は無いようです。
緑は悲しそうに手を振って、桃太郎の最後の姿を目に焼き付けました。
その桃太郎は一体どこへ向かったのか。
それはババアの住む村でした。
ババアは桃太郎の姿を見て仰天しました。腰を抜かしたように尻餅をついて、アワアワ言っています。
桃太郎は他の村民には目もくれず、一直線にババアの所へやって来ました。
それはなぜか?
なぜ初対面の桃太郎を見た婆さんが驚いていたのか?
答えはCMの後で……なんちゃって。
ep.3 バッドエンド? いやグッドエンドです
桃太郎が一軒の家に到着すると、懐に忍ばせていた包丁を取り出して扉を開けた。そこにいたお婆さんは桃太郎の姿を見るなり驚愕し、尻餅をついた。
桃太郎は包丁を握りしめ、お婆さんに振りかざす。
お婆さんは小さく悲鳴を上げるが腰が抜けているのか、足を引きづるように後ずさりした。
桃太郎の持っている包丁には赤黒いシミがベッタリとついていた。それを見てお婆さんは震える声で呟いた。
「あんた、復讐に来たのかい?」
桃太郎は薄笑いを浮かべると、無言のままお婆さんに襲いかかった。
少年時代に鬼を張り倒すほどの桃太郎にお婆さんは手も足も出なかった。
桃太郎は馬乗りになって、包丁でお婆さんの背中を突き刺した。
桃太郎は絶命したお婆さんを片手で担ぎ上げると、外に出て歩き出した。
行き交う村人が悲鳴を上げる。
桃太郎の顔はまるで鬼神のように赤く染め上がり、目が血走っていた。
桃太郎は洗濯場にやってきた。
すると川上からどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきた。
桃太郎はヒョイッとお婆さんを放り投げると、お婆さんはうつ伏せの状態で桃の上に上手に乗った。
お婆さんの背中に刺さった包丁が、鈍い光を放っていた。
<中略>
大鬼「桃から生まれたお姫様、今日からこの子は桃姫だ」
<中略>
桃姫は大鬼に向かって言いました。
「お父上様、わたくし――」
大鬼「ならん!」
大鬼は桃姫の言葉を遮り、その場に沈黙が訪れた。
桃姫は目を丸くする。
大鬼は桃太郎から聞いていた話を語り始めた。
泣き崩れる桃姫。
その理由は単純だった。
大鬼「桃太郎はわしの子じゃ。そしてお前もわしの子じゃ。兄妹仲良くここで暮らすといい。それがわしの望みであり、桃太郎の夢でもある」
大鬼は桃姫と鬼たちをつれて海岸にやって来た。
未だに泣き止まない桃姫の肩にそっと指を乗せ、水平線を指差した。
そこに鬼ヶ島へ向かってくる帆船が一隻。
緑の姿があった。
その舳先に見える小さな人影。
桃太郎だ。
桃太郎が再び鬼ヶ島へやってきた。
緑が桃太郎を拾い上げ、そっと桃姫の前に降ろす。
桃太郎「ただいま、お婆さん」
桃姫「お爺さん!」
桃姫は桃太郎にすがりついて涙を流した。
そう、桃太郎はお爺さんの若かりし日の姿。転生していたのだ。
そしてお婆さんもまた転生し、若返っていた。
鬼たちは桃太郎の帰還を喜び、歓迎会を催した。
そのドンチャン騒ぎは三日三晩続いたという。
そしてお爺さんとお婆さんは大鬼らと一緒に鬼ヶ島で仲良く暮らしましたとさ。
おしまい。
昔話って色々あるけど、イメージをどうしても変えたくて色々挑戦してるんですが、話がややこしくなるばかりで一向に日の目を見ません。
そんな中、思いがけず書き始めたこの物語。かなりシンプルにそぎ落として小説でもなく紙芝居のようなテイストに仕上がったんじゃ無いかと自負しております。
きっかけはYouTubeの桃男を見たからでしょうか。
面白いのにシンプルな構成。
絵もシンプルだし一本道だし、でも面白い。
結局面白いのが一番書きたかったんじゃないか?
ただ今は別の小説を執筆中でして、頭を少し切り替えたいと思っていたこともあります。
AIに添削させて良い感じになるのを知って、どんどん設定が膨らみすぎて、どうすんだこれ状態なんですが、つづきは順調に書けてますので長編小説目指して頑張ります。
「兄妹の異世界譚」絶賛公開中です。
よろしくお願いします。
最後番宣になっちゃった。




