3-3 適度に散らかっていて、適度に汚れていて、そして適度に臭い
静まり返る部屋。
焦げた匂いと、ところどころ剥がれた壁紙。
六畳一間はほぼ戦場の残骸だった。
沙月は呆然と呟く。
「……ほ、本当に撃っちゃった……部屋……終わった……」
兎子は涙目で鼻をすすりながら、ぽつり。
「真子っちゃん……マジで人間じゃない……」
真子はバズーカを肩から下ろし、淡々と告げた。
「勝利だ。だが……これはまだ始まりに過ぎない」
ズゥゥゥゥン……。
戦いの余韻が去った後に残されたのは、惨状だった。
畳はびしょ濡れ、黄色い花粉が壁紙にべったり、さらに除草剤の匂いが充満して、六畳一間は完全に地獄絵図。
「……わ、私の……部屋が……」
沙月の声は震えていた。
「これ……お母さん帰ってきたら、絶対怒られるやつじゃん!!」
沙月は頭を抱えて床に崩れ落ちる。
その隣で兎子は、マスクも効かずに盛大なくしゃみを繰り返していた。
「くしゅんっ!! ……もうやだぁ! お姉ちゃん早く外に出してよぉ!」
「で、でも……鍵は真子が……!」
沙月は必死に兎子へ縋りつく。
「兎子ぉぉぉ! お願い! 一緒に怒られてぇぇ!!」
「嫌に決まってるでしょ!! 私まで巻き込まないでよ!」
涙目で鼻をすすりながら、兎子は本気で拒否。
かくして――
姉の威厳は完全に地に堕ち、
六畳間の戦場跡には、花粉と薬剤と絶望だけが残された。
その様子を静かに眺めながら、真子は淡々と呟いた。
「……代償は大きい。しかし戦争とは常にそういうものだ」
「誰のせいでこうなったと思ってんのよおおおお!!!」
沙月の絶叫が、崩壊した部屋にこだました。
兎子がドアの前でピタリと立ち止まった。
「……ねえ。なんかいる」
空気が重くなる。
真子の目がすぐさま鋭く細められた。
「……次の妖精だ」
「な、なんで!? なんで次から次へと来るのよ!?」
沙月が半泣きで壁に背中をぶつける。
真子はため息をひとつ。
「まあ、当然だな。――私が呼んだからだ」
「…………は?」
沙月と兎子、同時にフリーズ。
真子は淡々と続けた。
「妖精の研究を進めるため、ここに召喚装置を仕掛けておいたんだ。
ただ妖精をおびき寄せるだけでは効率が悪い。
最適な環境に設置する必要があった」
「さい……てき?」
沙月が震える声で問い返す。
「そう。適度に散らかっていて、適度に汚れていて、そして適度に臭い……」
「…………」
「この条件を満たすのは、どう考えても沙月の部屋しかなかった」
「…………」
「…………」
「――――臭いって思われてたあああああああ!!!!!」
沙月の絶叫が六畳間を震わせる。
「そんな理由で私の部屋を妖精の戦場にしないでよぉぉぉ!!」
床に崩れ落ちる沙月をよそに、兎子は冷静に一言。
「……まあ、実際ちょっと臭いし」
「兎子までぇぇぇぇ!!!」
その瞬間――。
ドアの向こうから、不気味な声が響いた。
「……フフフ……愚かな人間ども……」
六畳一間に、再び新たな妖精の影が迫る。




