3-2 枯れ果てた花屑へ
「……ふっ。やはり想定通りだな」
真子がゆっくりと立ち上がり、腰に装着したポーチを開いた。
中から取り出されたのは――マスクとゴーグル。
「この日のために用意しておいた、花粉対策セットだ!」
沙月と兎子の目の前に、パッケージすら未開封の新品が突き出される。
「はい、沙月。これをつけろ」
「兎子、お前もだ。鼻水で窒息する前にな」
「え、えぇ……ありがと……」
兎子は涙目でマスクとゴーグルを装着。
「……ちょっとマシになったかも」
沙月も慌てて顔を覆う。
「はぁぁぁ……これで……なんとか……」
だが、ふと真子に目をやった瞬間――沙月の叫びが爆発する。
「ちょっと待って!? アンタだけ完全防塵フルアーマーじゃない!!」
そう。真子の姿は、頭からつま先まで遮蔽物で覆われた完全装備。
まるでバイオハザード研究所の職員、もしくは宇宙飛行士のような鉄壁の防御。
一方で沙月と兎子は――
市販マスク+ホームセンターの花粉ゴーグル。
せいぜいが春先の通学用レベル。
「なんで私たちだけ気休めグッズなの!?
これじゃ花粉の嵐に紙の盾持たされてるようなもんでしょ!!」
沙月は床をバンバン叩いて抗議する。
「わ、私も完全装備がよかったぁぁぁ!」
兎子も涙声で叫ぶ。
しかし真子は冷静に言い放った。
「限られた予算の中で優先度を決めただけだ。
私は司令塔……生き残らねばならない。君たちは捨て駒……いや、前線兵士だ」
「最低ぃぃぃ!!!」
沙月と兎子の怒号がシンクロする。
そのやりとりの横で、花の妖精フローリスは鼻で笑った。
「ふふ……人間同士で仲間割れか。滑稽だな」
だが、真子の瞳は鋭く光っていた。
「フローリス……ここからが本番だ」
「……仕方ない。最終手段だ」
真子が立ち上がり、クローゼットの奥へと手を伸ばした。
ガサゴソと物音が響き、次の瞬間――。
ズシィィィィン!!
六畳一間の床が震えた。
真子の腕に抱えられていたのは、人の背丈ほどもある巨大バズーカ砲。
黒光りするボディには銀文字で刻まれた名が輝く。
《除草皇帝ネコソギDX MarkⅢ》
「な、なにそれぇぇぇぇ!?
……いやいやいや!そんなもん撃ったら部屋が壊れるでしょ!!」
沙月が絶叫。
しかし真子の眼差しは鋭く、躊躇はなかった。
「部屋などどうでもいい。生存が第一だ」
「どうでもよくない! 私の生活空間!!」
沙月が床をバンバン叩く。
一方――花粉を撒き散らすフローリスは、勝利を確信して笑った。
「ふふふ……無駄なあがきだ、人間どもよ!
お前たちは永遠に、花粉地獄でくしゃみと鼻水に溺れる運命なのだ!」
だが――真子は一歩踏み出し、トリガーに指をかけた。
「人間をなめるな!!」
ズドォォォォォォォン!!!!
轟音とともに、バズーカから放たれたのは眩い緑色の閃光。
それは一瞬で部屋中を薙ぎ払い、花粉を焼き尽くし――
フローリスの身体を直撃した。
「ぎゃああああああああ!!!」
妖精の華やかな姿は一瞬で崩れ去り、
花弁は黒く焦げ、茎はねじれ、やがて――枯れ果てた花屑へと変わった。




