3-1 姉の威厳は地に落ちた
黄色い嵐が渦巻く部屋の中――。
沙月と兎子は絶望の表情を浮かべ、真子だけが悠然と立っていた。
「……いいわ」
沙月は花粉にむせながらも、一歩前に出た。
鼻をすすりつつ、必死に声を張り上げる。
「ここは――お姉ちゃんがなんとかする!!」
キメポーズ。
腰を落とし、片手を天に突き上げる。
頭の中では、雷鳴が轟き、背後に後光が差している……はずだった。
「……で、どうするの?」
フローリスが冷ややかに首を傾げる。
「えっ……」
沙月の手には、頼みの綱――殺虫スプレー《ゴキジェッター》。
彼女は震える指で噴射ボタンを押した。
ブシューゥゥゥゥ!!
黄色い霧が妖精に直撃――しかし。
「ふむ……これは?」
フローリスは眉一つ動かさない。
「香りは最悪だね。だが効果は皆無だ」
「え、効いてない!? ゴキ〇リだってこれには土下座するのに!!」
沙月の顔が青ざめる。
膝が震え、ついに力なく崩れ落ちた。
「お、終わった……もうだめだ……人類は花粉に支配される……」
だがそのとき。
「真子っちゃぁぁぁん!!助けてぇぇぇ!!」
兎子が泣き叫びながら、必死に防護服姿の真子へ縋りついた。
「ちょっ……ちょっと兎子!? お姉ちゃんに助け求めなさいよ!!」
沙月が慌てて立ち上がる。
「無理ぃぃぃ! お姉ちゃんは頼りにならないもん!」
兎子の涙の訴えは容赦がなかった。
「な……ッ!?」
沙月の胸に突き刺さる言葉。
威厳、尊厳、姉の存在価値――全てがバラバラと崩れ落ちる。
「わ、私は……お姉ちゃんなのに……」
拳を握り締めるが、何もできない。
その姿はまるで、ただの粉まみれ敗者であった。
部屋を埋め尽くす花粉の中、
姉の威厳は完全に地に堕ちた――。




