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六畳一間で妖精と戦う  作者: 南蛇井


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グロテスクな満腹感

部屋の中をそわそわと落ち着きなく歩き回る兎子。

カーペットの上を右へ左へと、まるで迷子のウサギのように。

「兎子、どうしたの?ウロウロして」

沙月が怪訝そうに声をかける。

「なんか落ち着かないんだよね……」

「なんで?」

「だってさ――いつものお姉ちゃんの部屋の“変な臭い”がしないから!」

一瞬、部屋に静寂が訪れた。

沙月は額に手を当てて、深くため息をつく。

「……いや、そもそも臭くなかったからね?それが普通だからね?」

「ほらな。もう夜も遅いし今日は休むぞ」

真子がそう言って、部屋の四隅にちょんちょんと白い粒を置いていく。

「え?なにそれ」

「塩だ。妖精封じだ」

その場の空気を締めるような真子の行動に、兎子と沙月が顔を見合わせる。

すると、横からずかずかと大声が割り込んだ。

「なに休むだと!?俺はまだ妖精を食べ足りんぞ!もっと出せ!24時間働け!365日休むな!」

ぶち上げたのはもちろんサンジ。

まるで昭和のブラック企業の社長のような台詞に、場が一瞬フリーズする。

「……サンジ、古っ!」

兎子が真顔で突っ込み、沙月も大きく頷いた。

「完全に古い妖精だね」

「ちょ、ちょっと待て!俺は古くないぞ!時代の最先端を走ってるんだぞ!」

「サンジ……ごめん、多分古いわ」

アスカまでさらりと追撃してきて、サンジは頭を抱えた。

その時だった。

部屋の隅――暗がりに、ひそやかに動く小さな影。

「……えっ?ちょっと待って。あそこ……なんかいるんだけど」

兎子が指差すと、沙月が青ざめた顔で後ずさる。

「ま、まさか……!本物のG!?やだやだやだぁぁ!」

場の空気が一気に凍りつく。だがすぐに、サンジが冷静(?)に断言した。

「いや、違う。あれは妖精だ」

「……いやいや、どっちにしても嫌だからね!?」

沙月の悲鳴をよそに、その影は塩を撒いたはずの床の四隅で、まるでバイキングの客のように堂々と居座っている。

「嘘でしょ……塩って妖精避けじゃなかったの?」

「はぁ……仕方ない」

真子が深いため息をつき、腕を組んで影に声をかけた。

「――おい。お前、一体何の妖精だ」

返ってきた声は、やけに間延びして気だるげだった。

「……あ?俺か?俺は“塩喰しおばみの妖精”だ。……今、食事中なんで、静かにしてくれるか?」

まるでファミレスの客が「注文中なんで話しかけるな」とでも言うかのような調子。

その名も姿も、塩をむしゃむしゃと平然と食らう姿も、すべてがじわじわと不安を誘う。

「しおばみ……?なにそれ、聞いたことないんだけど」

兎子が首をかしげる。

すぐさま沙月がスマホを取り出し、検索しながら眉をひそめた。

「……妖怪の名前、らしいよ。塩を食べる妖怪」

「え?じゃあ……妖怪なの?妖精なの?どっち?中途半端すぎない?」

兎子が首を傾げると、沙月も「うん、なんか……お姉ちゃんみたい」と小声で同意する。

「ちょっと!なんで私がここでディスられるのよ!」

真子がムッとするが、二人は完全に無視。

そんなやりとりを鼻で笑うように、塩喰の妖精は腕を広げて高らかに宣言した。

「ふはは……俺は塩を喰らう存在!この部屋の塩など一粒残らず平らげてやる!そうすれば――お前らに休みなど訪れん!」

「……あ、やばい感じのこと言い出した」

「休めないのは困る!寝かせてよ!」

人間組が顔を引きつらせる横で、サンジは燃え上がる炎を手に、口の端を吊り上げていた。

「なるほど……つまり食べられる妖精ってことだな」

「兎子、網!」

真子の短い指示に、兎子は即座に動いた。

「はいはいっと!」

バサッ、と網を振り下ろすと――食事に夢中で警戒心ゼロの塩喰妖精は、あっけなく捕獲された。

「な、なにしやがる!俺はまだ塩を……!」

「はい捕獲完了。お姉ちゃん、次の指示は?」兎子がにやりと笑う。

真子は顎に手を当て、淡々と答えた。

「沙月、絞ってみろ」

「……え?今なんて?」

「だから、絞れ。塩ばっかり食べてるなら、体から塩分の高い体液が出るはずだ。それを乾かせば、貴重な塩になる」

「ちょ、ちょっと待って!気持ち悪いよ!絶対嫌なんだけど!」

必死に首を振る沙月に、兎子が追い討ちをかける。

「お姉ちゃんの役目だよね、そういう気持ち悪いの」

「そんな役目あるわけないでしょ!」

抵抗むなしく、網ごと妖精を押し付けられた沙月は、泣きそうな顔で渋々手を伸ばす。

「……もう!知らないからね!」

ギュッ――!

「うぇぇぇ、きもいぃぃ……!」

「ぎゃああああああ!!!ぐぇぇぇぇぇ!!!」

妖精からはドロリとした液体が滲み出し、床にポタポタと落ちていく。

兎子は目を輝かせ、真子は冷静にメモを取っていた。

「ほら、出たな。これを乾燥させれば塩になる」

「……いやいやいや、そんな実験じみたテンションで言わないでよ!」

沙月は涙目で叫んだ。

「よし!」真子が満足げに頷く。「これを乾燥させれば、立派な塩が取れるな」

「……実用的すぎるよお姉ちゃん……」沙月は絞った妖精を見下ろして、げんなりとつぶやいた。

その視線の先で、ぐったりしおれた塩喰妖精が微かに痙攣している。

「で、このしおれたやつ……どうするの?」

沈黙を破ったのはサンジだった。

「決まってる!食べる!!」

「即答!?怖っ!」沙月が思わず身を引く。

だがアスカはうっとりと目を細めた。

「塩味がしっかり効いて、きっと美味しいと思うわ」

「……本当にこの妖精たち、食べる気しかないのね……」

呆れ半分、諦め半分で沙月がぼやく中、真子はあっさりと結論を出した。

「じゃあ、焼くよ」

そう言って、網に載せたしおれ妖精を火にかける。

じゅうう、と音がして、香ばしい匂いが部屋に漂い始めた。

「なんか……悪趣味なバーベキューだね……」

沙月は顔を引きつらせつつも、胃袋が反応してしまう自分に気づき、頭を抱えた。

じゅうじゅうと妖精の身が焦げ、塩の粒がぱちぱちと弾けた。

香ばしい匂いと、どこか海のような塩気が部屋いっぱいに広がる。

「……いただきます!」

サンジとアスカが勢いよくかぶりつく。

沙月も渋々、真子と兎子に促され、一口だけかじった。

――カリッ。

口に広がるのは、想像以上に濃厚な塩味。肉の旨みというよりも、塩そのものを噛んでいるような感覚に近い。

「……うまい!」

「塩が効いてるわね。まるで上質な干物」

「やだ……なんか普通に美味しいんだけど……」

一方で、かすかに震える妖精の残骸が皿の端に転がり、まだかすかに呻き声を上げていた。

「ぐぇぇ……まだ……俺は……」

「うるさい!」と三人と二匹が同時に突っ込み、残りも容赦なく平らげていく。

こうして――

今日の最後の食事を、美味しくいただき、そして全員すっきり寝た。

……ほんのりグロテスクな満腹感と共に。


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