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六畳一間で妖精と戦う  作者: 南蛇井


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……なんだこの状況

沙月がぽかんと口を開け、油に濡れた髪を指でつまみながらぼそっと言う。

「……え、何これ。急に昼ドラの最終回でも始まった?」

兎子は肩をすくめて鼻を鳴らす。

「いや、あれはもっと安っぽい。ほら、夕方にやってる再現ドラマってやつ……」

真子は腕を組んで、冷えた声で一刀両断。

「くだらない茶番をやっている暇はない。今は油に火がつけば即座に火葬場行きだぞ」

だが当のサンジとアスカは、世界の危機など完全に無視。

檻と縄に隔てられながらも、愛だの守るだのと囁き合い、完全に二人だけの世界を構築していた。

三人のツッコミも空しく──室内の空気は「油臭+恋愛ドラマ」という最悪のブレンドで満たされていくのだった。

油まみれの床をズルンと滑りながら、油の妖精が両手を振り上げて絶叫する。

「えぇぇ!? なんだよノリ悪ぃなぁ! サンジぃ!燃やせよぉぉ!俺の油を全力で使えよぉぉ!!」

しかし、その必死の呼びかけをまったく無視して、檻の中のサンジは拳を握りしめる。

「アスカ! 俺はお前を守る! 愛してるんだぁぁ!!」

縛られたアスカも涙ながらに叫ぶ。

「サンジ……! 私もよ! どんな運命でも、あなたと一緒に……!」

二人の声が重なり、場違いな愛の告白合戦が始まった。

檻越し、縄越し、油臭さ満載の中で。

そして、その光景を見た三人は……ぴたりと動きを止め、同時に振り返って大声でツッコむ。

「「「……この状況で何やってんのーーっ!!?」」」

緊張とコメディがごちゃ混ぜになった、奇妙な油臭い修羅場。

部屋の中は火災寸前なのに、空気だけは妙に「昼ドラ」じみていた。

部屋の中は、油の匂いと冷気、そして恋愛劇というカオスで満たされていた。

ベタベタの床に立ちながら、真子は腕を組み、冷徹に言い放つ。

「……油と炎。この組み合わせを放置すれば、私たちの住処は一瞬で火の海だ。処理方法を考えなければならない」

沙月は半泣きで自分のベタつく髪をつまみながら、「やだぁ、もうシャンプー何回しても落ちなそう……」と嘆く。

兎子は深刻な顔で「でも食料としてはチャンスなんだよね」と呟き、場の空気をさらにややこしくする。

その一方で――。

「アスカ! 俺は絶対にお前を守る! たとえこの身が油で滑って転ぼうとも!」

「サンジ……そんなあなたが、私……私……!」

檻と縄越しに、サンジとアスカはますますヒートアップ。声だけは最終回クライマックス。

三人は一斉にため息をついた。

「……あの二人、完全に恋愛劇要員になってるよね」

「危機感ゼロだな」

「いや、シリアス飛ばしてる分、場が軽くなる……ある意味助かってる」

油と炎の脅威。

そして勝手に進行する昼ドラ。

状況は危険なはずなのに、空気はなぜかコメディに傾いていくのだった――。

油の妖精は、部屋の床をローションスライダーでもするかのように全力疾走していた。

ヌルヌルと光を反射するその体が、壁や床に油の軌跡を残しながら滑るたび、室内は一気に危険地帯と化す。

「ヌルヌルの世界に沈めてやるぅぅ!!」

絶叫と共に突撃してくるその姿は、迫力よりも滑稽さの方が勝っている。

しかし、床は一瞬でベタベタになり、三人はまともに立つことすら困難だ。

「わっ、滑るっ!? ちょ、ちょっと誰か支えてぇ!」

「……床が完全にフライパン前の下準備だな」

「やだぁ!私の部屋が油田になっちゃうー!」

三人の声が交錯し、部屋は混乱とツッコミの渦に包まれていた。

油の妖精がツルツルと床を滑りながら暴れる中、真子はひとり冷静に動きを止めた。

眉一つ動かさず、背中からあの得体の知れない武器を取り出す。

「……もう仕方ない」

淡々とした声とともに掲げられたのは、無駄に輝きを放つ“虫取り網GT-R”。

異様な存在感を放ちながら、まるで伝説級の武具のように見えるその網に、沙月と兎子は思わず息を呑んだ。

「真子っちゃん、それ本当に虫取り網なの……?」

「どう見てもただの網なのに、なんでここまで頼りがいあるんだろ……」

真子は二人の呟きを一切気にせず、油の妖精に冷徹な視線を向ける。

そして短く、鋭く――。

「捕獲開始」

次の瞬間、網がしなやかにしなり、バサッと大きく広がる。

暴れ回る油の妖精を、見事に一発で包み込んだ。

「ぐぬぅ!? な、なんだこの網はぁぁ!! ヌルヌルが通じねぇぇぇ!?」

捕らわれた油の妖精がジタバタと暴れるが、網の中から抜け出すことはできなかった。

バサッ!

網の中で油の妖精が見事に捕獲され、ジタバタと全力で暴れ出す。

「や、やめろぉぉ! こんなことしたら網がベッタベタになるぞぉぉ!」

必死の抵抗に聞こえるその叫びは、しかしどこか間抜けだった。

すかさず沙月が額に青筋を立ててツッコミを入れる。

「そんな心配いらない! もう部屋中がベタベタだから!」

髪の毛に油がついて泣きそうになっている本人の説得力は抜群だ。

兎子はというと、ため息をつきながら冷めた視線を投げた。

「……真子っちゃん、やっぱり悪役にしか見えないよね」

網を押さえながら冷徹な眼差しを崩さない真子に、油妖精が「ぐぬぬ!」と呻き声を上げる。

まるで三人と妖精カップルが揃って悪役に立ち向かっているかのような構図――。

真子は網の中で暴れる油妖精を見下ろし、眉一つ動かさずに告げた。

「……兎子、調理の準備だ」

その声音はあまりに冷徹で、まるで処刑宣告のよう。

「了解〜♪」

兎子はまるでピクニックにでも行くかのような軽快さでキッチンに駆け込み、フライパンを片手に戻ってきた。

「カリッと、ジューシーにいっちゃうね」

フライパンを構えてキラリと笑うその姿は、どう見ても料理番組のシェフ。だがターゲットは妖精。

「え、ちょ、もう食べる気なの!? 嘘でしょ!?」

沙月は悲鳴混じりに叫び、髪にまだ残る油を振り乱して抗議する。

しかし真子も兎子もすでに「食糧モード」。

油妖精の運命は、もはやフライパンの上で揺れていた――。

真子はゆっくりと檻の中のサンジへと視線を向けた。

その目は氷のように冷たく、感情を一切排した光を宿している。

「……火を出せ」

「なっ……!?」

サンジの顔色が変わる。怒りと恐怖が入り混じった表情。

真子は淡々と続けた。

「拒否すれば――アスカを日当たりに放置する」

「な……卑怯な……!」

サンジの声は震え、拳を握りしめる。

「卑怯な人間め!そんな脅しが通じると思って……!」

「サンジ……」

氷に縛られたアスカが切なげに名を呼ぶ。その声は、サンジの心を一撃で貫いた。

「ぐっ……ちくしょう……!」

サンジは涙を浮かべ、必死に牙を食いしばりながら、掌に小さな炎を灯す。

「アスカを……守るためなら……俺は……!」

炎が揺らめいた瞬間、室内の油の匂いが一気に緊張感を増し、全員の心臓を掴んだ――。

フライパンに放り込まれた油の妖精は、網の中で必死にもがいていた。

「ぐわぁぁぁ!熱いぃぃ!俺のヌルヌルがぁぁぁぁ!」

炎にあぶられ、ヌルヌルとした輝きがジュワジュワと弾ける。

「カリカリになっていくぅぅぅ!やめろぉぉぉ!」

室内に広がるのは、何とも言えない――いや、どう考えても「美味しそう」な香ばしい匂い。

油のはぜる音とともに、部屋はまるで高級レストランの厨房のような雰囲気に包まれた。

「……ごくり」

思わず三人の喉が揃って鳴る。

沙月は慌てて首を振った。

「ち、違うから!私、食べ物のことなんて考えてないから!」

兎子はフライパンを見つめながら、唇を噛む。

「……いや、でもこれ……絶対美味しい匂いなんだよね……」

真子は無言で腕を組み、ただ冷静に油の妖精の断末魔を見つめていた。

「ぎゃああぁぁぁぁ!ヌルヌルのプライドがぁぁぁぁ!」

――その叫びも、香ばしい煙にかき消されていった。

じゅわぁぁぁ――。

フライパンから立ちのぼる湯気と香ばしい匂い。

部屋中が、空腹を直撃する唐揚げの誘惑に包まれた。

沙月は鼻をひくつかせ、ぽつりと呟く。

「……なんかさ……唐揚げの匂いがするんだけど」

兎子もごくりと唾を飲み込みながら、正直な感想を口にする。

「うん……普通においしそうだね」

真子は腕を組み、冷徹に結論を下す。

「これで食料問題は、ひとまず解決だな」

その横で、檻の中のサンジが膝をつき、肩を震わせていた。

「ぐ、ぐぬぬ……俺は……人間の……食欲に……負けたのかぁぁぁ!」

涙を流しながら天を仰ぐ炎の妖精。

隣のアスカは「サンジ……!」と声をかけるが、その姿はどう見ても“唐揚げ敗北劇”の安っぽい一幕だった。

三人は思わず顔を見合わせ、同時にため息をつく。

「「「……なんだこの状況」」」

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