15-2 両手を広げて歓喜のポーズ
「で……次はこいつをどうするか、だ」
視線は網の中のサンジへ。炎の妖精はなおも「アスカぁぁ!」と絶叫し続けている。
「えっ、ちょっと待って!?完全に拘束するの?」
沙月は目を丸くし、自分の部屋で繰り広げられるカオスを見て半ば悲鳴をあげる。
「ていうか……私の生活空間が恋愛劇場とサバイバル実験場になってるんだけど!?」
「利用できるなら、火の妖精って調理とか暖房に便利かもね」
兎子は氷を片付けながら、妙に現実的な提案をする。
「氷と火があれば、けっこう快適に暮らせるんじゃない?」
「文明の利器が妖精に代替された瞬間……か」
真子は顎に手を当て、淡々と結論を口にした。
だがその思考の裏には――水源を守るための冷徹な計算がある。
一方、縛られたアスカと捕らわれたサンジの恋愛劇は止まらない。
「サンジ……近づかないで、あなたの炎で私が……!」
「だからこそ守るんだ!アスカぁぁ!!」
二人の叫びが重なり、部屋の空気は熱と冷気が入り交じる。
「……緊張感あるのか、コントなのか、もう分かんないわ」
沙月は頭を抱え、兎子は肩をすくめる。
真子だけが冷徹に言い切った。
「いずれにせよ――サンジをどう扱うか、それが次の課題だ」
部屋の中、氷と炎、恋愛と生存。
すべてが交錯したまま、彼女たちの物語は次の局面へと進んでいく。
部屋の中央には、机に縛りつけられた氷の妖精アスカ。彼女から漏れ出す冷気が、じんわりと部屋全体を包み込み、まるで天然の冷房のように空気を澄ませていた。
「……おいサンジ、あんまり近寄るなよ。さっきみたいに溶けかけるぞ」
真子が淡々と注意すると、炎の妖精サンジは悔しそうに距離をとる。
「わ、分かってる!でも……アスカを放っておくわけにも……!」
「大丈夫よサンジ……私、まだ耐えられるから……」
縛られたままのアスカが、かすかに頬を赤らめながら答える。
その様子を、沙月と兎子は真剣な顔で見つめていた。
「よしっ……! 氷を冷蔵庫代わりにして、必要なときだけサンジの炎で溶かす……!」
沙月がパッと手を打ち、まるでサバイバル番組の司会者のように声を張る。
「つまり――氷を保存し、必要分だけ水に変換。これで水源は確保だ」
真子が冷静に結論を下すと、兎子も感心したように頷いた。
「なるほど……氷と炎の共存か。すごい、完全に生活サイクルが出来ちゃったね」
こうして――
氷を冷房に。炎で氷を溶かして飲料水を確保。
真夏のサバイバル生活における、新たな基盤が完成したのであった。
アスカの冷気が部屋を包み込み、外のじりじりとした真夏の熱気がまるで別世界のもののように感じられる。扇風機もエアコンも要らない。小さな氷片が机の上で煌めき、時折こつんと床に転がっては、すぐに霧散していく。
「……最高だね。涼しいし、水もあるし。もうここに住み込んでもいい気がする!」
沙月はベッドに寝転がりながら、両手を広げて歓喜のポーズ。
「いやいや、私は絶対いやだからね。この部屋に住み込みとか無理。なんか微妙に臭いし……」
兎子が即座に手を振って否定する。ジト目で沙月を見やりながら、冷気にあたって汗を拭った。
真子は腕を組んだまま、冷静に部屋を見渡す。
「水源確保、冷房機能……サバイバル環境としては理想的だな。問題は食料だが……」
沙月と兎子が顔を見合わせる。沙月の「もう住めば?」という浮かれ調子と、兎子の「絶対無理!」という即否定。その温度差が、涼しいはずの部屋に奇妙な温度感を生み出していた。




