14-1 昼ドラモード
その光景に、沙月たちは一斉に固まった。
「えっ……なにこれ、オーラ出てない? 恋人感すごくない?」沙月が目を瞬かせる。
「心拍エフェクトってなに……ドラマ演出か?」真子が冷静に突っ込む。
「……完全にラブコメ入った……」兎子は呆然とつぶやいた。
熱と冷気がせめぎ合うはずの部屋は、今や妙に甘い空気に包まれていた。
サンジとアスカの間に、甘くも熱い恋人同士の空気が漂う。
その視線の絡み合いは、どう見てもただの仲間ではなかった。
「……え、ちょっと待て」
真子が眉をひそめ、腕を組んだままじりっと二人を見やる。
「恋人!? 今さら判明する設定なのか?」
冷静に見せかけた口調だったが、声の端々に明らかな動揺がにじんでいる。
「ちょ、ちょっと待って! なにこの展開!?」
沙月は頭を抱え、ぐるぐる回るようにその場を歩き回った。
「さっきまで『氷の妖精を捕獲せよ!』ってノリだったのに! 急に恋愛ドラマにシフトとか意味わかんないんだけど!」
兎子はというと、ぽかんと口を開け、すっかり置いていかれた顔でつぶやいた。
「……話が一気にドラマ化した……」
その声は小さいのに、やけに部屋に響いてしまい、妙な説得力を持つ。
三人の混乱とツッコミが入り乱れるなか、サンジとアスカは視線を絡ませたまま。
まるで「周囲なんて見えてない」恋人たちの空気を作り出し、室内の温度と湿度をさらに混沌とさせていた。
氷の妖精アスカと炎の妖精サンジが、互いを見つめ合って恋人同士であることを隠さなくなった瞬間――。
部屋の空気は、一気に混乱の渦に巻き込まれた。
「えっ……マジで恋人なの? この二人?」
沙月が両手をばたばたさせながら叫ぶ。
「だってさっきまで机に縛りつけて捕まえてたよ!? その状況から恋人オチってどういうこと!? 展開が急すぎるでしょ!」
「……どうしてこんな展開になるの……」
兎子は冷静を装いながらも、完全に理解が追いつかず呟く。
視線は宙を泳ぎ、目の焦点が合っていない。
「いや、待て待て……」
真子は額を押さえ、深く息を吐いた。
「仕方ない。どんな関係だろうと、あいつは氷を生み出す貴重な水源だ。恋人だろうが何だろうが、ここで確保しなきゃ死活問題なんだ」
理詰めで冷静さを装おうとする真子。
だが、その顔の端は小さく引きつっていて、ツッコミ役としてのキャパシティを超えかけていた。
室内には――恋愛ドラマとサバイバル任務が同居する、なんとも形容しがたい混沌が広がっていた。
混乱の中でも、真子の言葉だけは冷静さを取り戻させる重みを帯びていた。
「……とにかくだ。アスカを確保できれば、この部屋は氷を量産できる。つまり――水の問題は解決する」
淡々と告げる真子。だが、沙月と兎子はまるで違う方向に気持ちを持っていかれていた。
「いやいやいや! ちょっと待って! 水源とかより、この二人の恋愛ドラマどうすんの!? 私、なんか悪役ポジになってない!?」
沙月が髪をわしわしかき乱しながら、思わずアスカとサンジを交互に指差す。
「わかる……。これもう完全に“引き裂かれた恋人たち”じゃん……」
兎子はわざと遠い目をしてみせ、ドラマ視聴者のノリで解説を挟む。
「誰がそんな昼ドラモードを望んでるんだ……」
真子はため息を深く吐き、額に手を当てた。
しかし、確かに今のやり取りには緊迫感を和らげる妙な効果があった。
灼熱の妖精との死闘を経て、再び訪れようとしている混沌の気配。
その緊張感を、一瞬だけ笑いに変えることで乗り越えられる。
そして三人は理解していた。
――氷の妖精アスカは、これからの生存戦略に欠かせない存在になる。
――炎の妖精サンジは、単なる邪魔者ではなく、物語を思わぬ方向へ引きずり込む存在になる。




