2-1 お前はすでに“殺した”
磁石に貼り付けられた小さな妖精は、なおも必死に身をよじり、牙を剥いて吠えた。
「おのれ……我らの同胞を殺した人間ども……絶対に許さん! お前らは皆、報いを受けるのだ!」
その目は血走り、狂気と憎悪の炎を燃やしている。
沙月は顔を引きつらせ、思わず後ずさった。
「ま、待って! あれは事故だから! ただGかと思って……」
「黙れぇぇ!! 我らをゴキ〇リ扱いだと!? 貴様ら人間の傲慢、この場で血で購わせてやる!」
「……チッ、話にならん」
真子が冷たく舌打ちし、すっと立ち上がる。
次の瞬間、彼女の手に握られたのは――先ほどの殺虫スプレー。
シュオオオオオオッ!!
白い噴射が妖精を直撃。
「ぎゃあああああっ!!!」と悲鳴を上げ、妖精は断末魔を残して崩れ落ちた。
……静寂。
「……よし、討伐完了」
真子は無表情のまま、スプレー缶のキャップを閉めた。
「ちょ、ちょっと! いいの? ほんとに殺しちゃってよかったの!?」
沙月は青ざめた顔で真子に詰め寄る。
「沙月。妖精は一度逆上したら何を言っても無駄だ。お前はすでに“殺した”んだ。もう後戻りはできん」
「え、えええ!? ちょっと待って! ってことは……?」
「そうだ。――お前と妖精との戦争が始まった」
「はああああ!?!? 戦争!? 私ひとりと妖精軍団!? 無理無理無理無理!!」
兎子がすかさず口を挟む。
「はいはい、でもそれお姉ちゃんが悪いんでしょ? 私巻き込まないでね」
「なんでそんな冷たいの!? 姉妹でしょ!? 二人しかいない姉妹でしょ!?」
「二人しかいないからこそ、余計に迷惑かけないでほしいんだけど」
「兎子。残念ながら、お前も対象だ」
「は?」
真子は淡々と告げる。
「目撃者は全員、妖精にとって敵。……つまりお前も、もう戦争の当事者だ」
兎子の顔が一気に青ざめた。
「えぇぇぇ!? お姉ちゃんのせいで!? マジ迷惑なんだけど!!」
「どうするの私!? どうすればいいの!? 死ぬの!? 死ぬしかないの!?」
「迷惑!!」
「ちょっと! それはないでしょ!!」
「……お前ら姉妹喧嘩してる場合じゃない」
真子の低い声が部屋の空気を切り裂いた。
「……来るぞ。次の敵が」




