12-3 灼熱と冷気の全面戦争
重苦しい絶望感が、灼熱の熱気とともに部屋を満たしていった。
灼熱の光線がなおも部屋を覆い尽くすなか、三人の表情はそれぞれに揺れていた。
沙月は顔を真っ赤にし、両手をばたつかせながら叫ぶ。
「だ、誰か水ぃー! もう無理だってば!」
その姿は焦燥そのもので、今にも崩れ落ちそうな危うさをはらんでいた。
一方、兎子は必死に呼吸を整えつつ、冷静さを失わないよう努める。
「……落ち着いて。方法はあるはず」
視線は部屋の隅から窓際まで動き、次の手を探すように鋭く光る。
その様子は、絶望を前にしても思考を止めない“機転”そのものだった。
そして真子。
彼女は腕を組み、汗を滴らせながらも冷徹な声で分析する。
「攻撃は半減できた。だが根本は解決していない。このままでは全滅だ。……次の一手を導き出すしかない」
焦り、機転、冷静な分析――三者三様の反応が絡み合い、重苦しい空気の中にも微かな“突破口”の兆しが灯り始める。
――この苦境をどう打開するか。
次なる展開の焦点は、いま確実にそこへ収束していった。
灼熱の光線が降り注ぎ、部屋の空気が焼けるように揺らめいていた。
「くっ……暑い……! もう無理……!」
沙月は額の汗をぬぐいながら、必死に視線を部屋中に走らせる。何か――何か打開策はないのか。
そして、視線が天井の隅にある白い箱へと止まった瞬間、彼女の表情がパッと輝いた。
「――あっ! エアコンあるじゃん!」
突然の叫びに、兎子と真子が同時に振り返る。
「「今さら気づいたのか!?」」
二人のツッコミが重なり、まるでお約束の舞台のように部屋に響き渡った。
灼熱の妖精がぎらつく光を背に、三人の空気だけは妙にコメディ調であった。
沙月は床を転がるようにして机の上のリモコンを掴み取った。
その顔は汗でびっしょり、けれども目だけは妙にキラキラと輝いている。
「ふふん……文明の力、見せてやるんだから!」
リモコンのボタンを力強く押す。――ピッ。
すぐさまエアコンが唸りを上げ、強烈な冷風が部屋全体へと吹き荒れた。
ブオオオオオ――!
熱気に満ちていた空気が一瞬でかき乱され、冷たい風が肌を撫でる。
汗だくの沙月と兎子は「ひゃあっ」と同時に声を上げ、真子ですらわずかに目を細めるほどの涼気。
「な、なんですと!? この冷気……まさか文明の力……!?」
灼熱の妖精は大きな目を見開き、光り輝く腕を慌てて振りかざした。
じりじりと焦げる熱気と、ビュウビュウと吹き荒れる冷風。
部屋の中で、真っ向から温度の対決が始まった。
灼熱の妖精が両腕を大きく掲げ、怒号のように叫んだ。
「【灼熱極熱日差しサンサン光線マシマシ】ぃぃぃッ!!!」
瞬間、部屋は白熱した光で満たされ、灼けるような空気が押し寄せる。
床がミシリと軋み、壁紙までぱちぱちと音を立てて歪む。
しかし――その正面からエアコンの冷風が轟音を立てて吹き荒れた。
「ブオオオオオオッ!」と暴れる風が熱気を切り裂き、室内に激しい気流の渦を生み出す。
じりじりと焼ける熱気と、刺すように冷たい風。
二つの相反する力が正面衝突し、視界がぐにゃりと揺らぐ。
蜃気楼のように歪む景色、そして冷気が凝縮して立ち上る白い霧。
部屋はまるで熱砂の砂漠と極寒の雪原を同時に押し込めたかのような、奇妙で不気味な光景へと変貌した。
三人の髪と制服は風に煽られ、ばさばさと舞い上がる。
沙月は「うわぁぁ!髪がもつれるー!」と叫び、兎子は日傘を必死に押さえ込む。
真子だけは腕を組んで睨みつけ――だが、その額からはしっかりと汗と冷気で滴る雫が落ちていた。
まさに――灼熱と冷気の全面戦争だった。
エアコンの冷風と妖精の灼熱がぶつかり合い、室内は異常気象の実験場と化していた。
床はじりじり熱く、天井付近は白い霧がうっすら立ちこめる。
三人はただ、嵐の中心で必死に耐えるしかなかった。
「エアコン頑張れぇぇぇ!」
沙月は両手を合わせ、まるでスポーツの試合を応援するかのように声を張り上げる。
兎子は髪を押さえながら、呆れ混じりに叫んだ。
「……まさか機械を応援する日が来るなんて思わなかったよ!」




