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六畳一間で妖精と戦う  作者: 南蛇井


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12-1 ちょっとはマシになったかな

顔を真っ赤にして、まるで火に炙られる魚のようにバタバタと手足を動かす。

その声には焦燥と切実さしかなく、冷静さは欠片も残っていなかった。

だが、部屋には――水など存在しない。

「……水?」

兎子が虚ろな目で辺りを見渡し、そして項垂れる。

「ないよ……どこ探しても……」

その言葉で、沙月の顔が一気に絶望色に染まった。

「そ、そんなぁ……ないの……!? じゃあ、私たち、このまま焼かれるしか……!」

妖精の放つ光線は容赦なく部屋を灼き、息を吸うたび喉が焼け付く。

渇きと熱が同時に迫り、沙月は膝から崩れ落ちそうになる。

「ひ、ひぃ……! このままじゃマジで溶ける……!」

沙月が床にへたり込み、弱音を吐いたその瞬間。

「……ちょっと待って」

兎子は震える手でカバンをごそごそと探り、勢いよく何かを取り出した。

――ぱんっ!

色あせた花柄の日傘が、灼熱の光を遮るように開かれる。

「と、とりあえずこれ! 日差しには……日傘!」

「えっ!? 日傘ぁ!?」

沙月が目を丸くする間に、兎子は迷わず沙月の頭上へかざした。

その瞬間、肌を焼いていた刺すような熱が一気に和らぐ。

「……!? 本当に……涼しい……!」

沙月の表情が驚愕から歓喜へと変わる。

「よし、私にも寄こせ」

真子が低く言い、すぐさま傘の影に身体を滑り込ませる。

三人は日傘を中心に身を寄せ合い、灼熱の妖精の光線を受け流すように耐える。

「な、なにぃ……!? 力が……半減しているだと……!?」

灼熱の妖精が目を剥き、苛立ちを露わに叫ぶ。

確かに攻撃はまだ熱く、汗も止まらない。だが――

日傘は、確実に妖精の力を削いでいた。

日傘の影に身を寄せながら、三人は荒い息をついていた。

肌を刺すような熱はやわらいだが、額から流れる汗は止まらない。

「ふぅ……だいぶマシになった……」

沙月が胸に手を当て、安堵の笑みを浮かべる。

だが、その横で真子は眉ひとつ動かさずに口を開いた。

「確かに攻撃は半減した。しかし――」

低く、冷静な声が空気を引き締める。

「室温の上昇は止まっていない。体力の消耗も進んでいる。根本的な解決には程遠い」

沙月と兎子は顔を見合わせ、同時に「えぇ……」と情けない声を漏らした。

「ちょっとは安心させてよ! 今の状況でそれ言う!?」

沙月が抗議するも、真子は腕を組んで揺るがない。

「事実を述べただけだ。戦術的に見れば、日傘はあくまで一時しのぎ……戦況は依然として劣勢だ」

データを読み取るような冷徹な分析。

その言葉がさらに緊張を高める。

「……っ、暑すぎる……もう限界!」

沙月が頭を抱えて叫ぶ。

「じゃあ窓を開けろ。外気を取り入れれば多少は違うはずだ」

真子が冷静に提案する。

「えぇ……でも夏の外って、ぬるいだけじゃ……」

兎子が渋い顔をするが、結局三人は顔を見合わせて頷き合った。

「えいっ!」

がらり、と窓を開け放つ。

どこか生ぬるい風が部屋に流れ込んだ。

だが、それでもさっきまで充満していた灼熱の空気よりはまだマシだった。

「……はぁ、ちょっと楽になった……」

沙月が頬に風を受け、わずかに安堵の息を漏らす。

「短期的には効果があるな。温度が一気に下がるわけではないが、換気による熱気の逃避は有効だ」

真子は窓際に立ち、まるで気象観測でもしているかのように冷静に結論を述べる。

兎子も額の汗をぬぐいながら、小さく頷いた。

「確かに……ちょっとはマシになったかな」

たったそれだけのことなのに、三人の間にわずかな希望が灯る。


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