11-1 サバイバルの緊張感とブラックユーモア
真子は冷ややかな声で告げた。
「……持ってきてはいない」
その一言に、沙月はガタッと机から身を乗り出す。
「えええええ!? じゃ、じゃあどこにあるの!? ご飯あるって言ったじゃん!!」
期待と絶望の入り混じった視線が真子に突き刺さる。
だが彼女は一切動じず、淡々と人差し指を伸ばした。
「……あそこだ」
二人の目線の先――指差されたのは、部屋の隅に放置されたゴミ箱。
空カップやら丸めたティッシュやら、突風で散乱した残骸が無理やり突っ込まれている、カオスの坩堝。
「…………いやいやいやいや!!」
沙月が全力で両手を振った。
「ちょっと待って!? あそこゴミしかないでしょ!? ゴミ! 残飯とプリンのカップとゴミだからね!?」
兎子も半眼になってため息をつく。
「……真子っちゃん、まさか食料ってそのゴミ箱から探すって言わないよね?」
真子の横顔は真剣そのもの。
「当然だ」
沙月と兎子の顔から、血の気がサーッと引いていった。
真子は無言でゴミ箱に手を突っ込み、ガサゴソと漁り始めた。
沙月と兎子が固唾をのんで見守る中、彼女の手に掴まれたのは――突風で吹き飛ばされ、くしゃくしゃに潰れた妖精の死骸。
「こ、こわっ!?」
沙月が条件反射で後ずさる。
真子は表情を崩さず、真剣にそれを掲げ上げた。
「……これだ」
部屋の蛍光灯の下、黒ずんだ羽と萎びた体が不気味に照らされる。
「よ、妖精……?」
兎子が震える声で呟く。
真子は冷静そのものだった。
「妖精は魔力生命体。構造は単純だ。焼けば不純物は飛び、魔力を帯びた蛋白質になる。……つまり食料だ」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
沙月と兎子、二人の悲鳴が重なった。
沙月は慌てて両手を振り回す。
「なにそれ!? ホラー映画!? ゾンビ食べるやつでしょ!? 無理無理無理ぃぃぃ!!」
兎子も涙目で頭を抱える。
「ぜっ、絶対イヤだから! 妖精なんて食べたら一生トラウマだよ! 夜寝れなくなるよ!!」
しかし真子は譲らない。
その姿は、極限状態のサバイバルを生き抜く兵士のように厳格だった。
真子は手にした妖精の死骸を、冷ややかな視線で見つめたまま口を開いた。
「……だが、食わなければ餓死するぞ」
その声は一切の感情を交えず、現実だけを突きつける冷徹なものだった。
沙月は反射的に口を開くが、言葉が出ない。
「ぐっ……」
声にならない呻きだけが喉を漏れる。
横で兎子は、両手で顔を覆いながら震えていた。
「そ、そんな二択……イヤすぎるよぉ……」
涙目で今にも泣きそうな声を絞り出す。
空腹でぐぅぅと鳴る腹の音が、残酷な現実をさらに強調した。
真子の冷徹な言葉と二人の絶望感が、狭い部屋の空気をじわりと重くする。
まるでこの部屋そのものが、異様なサバイバル実験場へと変わっていくようだった。
部屋の片隅、ゴミ箱から救出された突風妖精の死骸が無言の圧力を放っていた。
焦げ臭さと鉄っぽい匂いが鼻をつき、誰も口を開けなくなる。
真子は冷静に言い放つ。
「焼いて食べるか――それとも、他の方法を探すか。選べ」
沙月と兎子は息を呑み、互いの顔を見合わせた。
「……そんな、選択肢が地獄しかないんだけど!」
「生き延びるためとはいえ、妖精料理は無理だよぉ!」
胃袋を締めつける空腹感と、心を締めつける嫌悪感。
二つの板挟みに耐えながら、彼女たちは答えを出さねばならなかった。
部屋の中に漂うのは、サバイバルの緊張感とブラックユーモア。
彼女たちは妖精を食べるのか……?




