10-1 “女子高生の尿塩”
一方その横で、兎子は顔を真っ赤にし、両手で膝を抱え込みながら縮こまっている。
「……もう無理、恥ずかしすぎて死ぬ……」
小声で震えるその姿は、まるで処刑を待つ囚人のよう。
真子は淡々と頷き、冷静に記録者のような声を落とす。
「よくやったな兎子。これで妖精から生存確率が上がる」
「褒められても全然うれしくないからぁぁ!!」
涙目で叫ぶ兎子の悲鳴をかき消すように、沙月の「ドヤ顔ポーズ」はいつまでも続いていた。
真子は無言でカバンをごそごそと漁り、なぜか取り出したのは――電気コンロとフライパンだった。
「……いや、なんでそんなの持ってきてるの!?」
沙月が素で突っ込む。
「妖精との戦闘を想定して、あらゆる状況に備えているからだ」
真子は真剣そのもの。
そしてコップに貯まった“例の液体”を、ためらいなくフライパンに注ぎ込む。
「じゅわぁぁぁぁ……」
一瞬にして広がる、鼻をつんざく刺激臭。
「くっさ!!」
「地獄の臭いだよこれぇぇ!!」
沙月と兎子は口と鼻を同時に押さえ、涙目でのたうち回る。
しかし真子だけは無表情でフライパンを見つめ、木べらでかき混ぜ続ける。まるで調理番組のシェフのような手際だ。
数分後――。
白い結晶が、焦げつく鉄板の上にかすかに姿を現した。
真子は指先でそれを摘み取り、満足げに宣言する。
「……出来たぞ! 女子高生のおしっこからできた、純度の高い塩だ!」
「そんな誇らしげに言うことじゃないからぁぁ!!」
「恥ずかしすぎて逆に死ねるぅぅ!!」
部屋中に充満する異臭と、謎の達成感。
沙月たちは絶望と羞恥の狭間で、言葉にならない悲鳴を上げ続けた。
白い結晶を慎重にティッシュに包み、沙月は部屋の四隅へと配置していった。
それを見届けると、彼女は両手を腰に当て、にっこりと笑う。
「やったね! これで安心だよ!」
「いやったね、じゃないからぁぁ!!」
すかさず兎子が全力でツッコミを入れる。顔は真っ赤、声は裏返り気味だ。
「何その誇らしげな笑顔!? やってることは、恥ずかしさの極みだからね!?」
しかし真子は腕を組み、顎を上げ、どこか勝ち誇ったような表情を浮かべていた。
「ふっ……安心しろ。これで妖精よけは完璧だ。奴らがこの結界を破ることは不可能だろう」
「いやいやいや、結界の材料が“女子高生の尿塩”って! そんなファンタジー聞いたことないからぁぁ!!」
兎子の絶叫が部屋に響き渡る。
一方で沙月は、まるで勝利の方程式を完成させたかのように親指を立てていた。
「ほら、私ってばやるときはやるでしょ!」
異臭漂うカオスな部屋の中で、三人の温度差だけが妙に鮮明だった――。




