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六畳一間で妖精と戦う  作者: 南蛇井


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9-3 ちょっと恥ずかしいだけ

9-3

「……あっ!」

突如として沙月がピンと背筋を伸ばした。目がキラキラと輝き、何かを思いついた子どものように声を張り上げる。

「私たち――塩持ってるじゃん!」

勢いよく机の上にあったコップをつかみ、部屋の隅へとずかずか移動。まるで勝利の切り札を引き当てた勇者のようなドヤ顔である。

その様子を見た真子と兎子は、一瞬だけ言葉を失った。だがすぐに、互いに視線を交わす。

「……まさか」

「……いや、でもあの顔は絶対そうだ」

二人の背筋に、嫌な予感がじわりと走った。

沙月はためらいゼロだった。

部屋の隅で、まるで当たり前のようにコップを構え――そして数分後。

「――ほら!これだよ!」

誇らしげに両手で掲げられたコップの中には、黄金色の液体がちゃぷちゃぷと波打っていた。

真子は腕を組んだまま、真剣な目でそれを凝視する。

「……確かに、塩分は含まれているな」

妙に冷静な科学者ボイス。

一方、兎子は目をむき、顔を真っ赤にして絶叫した。

「いやああああああああ!? なんでそんな発想にたどり着くの!? 正気なの!? 女子高生がやることじゃないでしょ!!」

沙月は得意げに腰に手を当て、ドヤ顔を決める。

「ふふん!これぞ私の知恵と勇気の結晶!」

兎子は頭を抱えて転げ回り、真子は妙に納得顔――。

温度差が三者三様にひどすぎた。

沙月は、コップを高く掲げながら勝ち誇った声をあげた。

「さあ!次は兎子の番だよ!」

まるで「さあ次の走者どうぞ!」くらいのノリ。

当たり前すぎる顔で言う姉に、兎子は全力で首を振った。

「ぜっっったいにやだ!! 死んでもやだ!! お姉ちゃん頭おかしいんじゃないの!?」

顔は真っ赤、目はうるみ、羞恥心と怒りが入り混じった絶叫。

だがその横で、真子は腕を組み、至極冷静に口を開いた。

「冷静になれ、兎子。選択肢は二つだ。――妖精に殺されるか、ちょっと恥ずかしいだけで済むか」

その理詰めの声音に、兎子の反論は瞬時に詰まる。

「う……うぅ……」

涙目で唇を噛みしめ、必死に耐える兎子。

沙月はそんな妹の肩をぽんぽん叩き、妙に爽やかな笑顔で言った。

「大丈夫だよ兎子!これは未来の平和のための尊い犠牲なんだよ!」

「犠牲って言っちゃったよ!? 絶対いやぁぁぁ!!」

しかし――涙目で叫びながらも、兎子の心はじわじわと追い詰められていくのだった。

沙月はコップを掲げながら、胸を張ってドヤ顔を炸裂させた。

「ふふん! どう? 私だってやるときはやるんだから!」

あたかも偉業を成し遂げた英雄のような誇らしげな笑み。

部屋の中はまだゴミと紙屑が散乱してカオス状態なのに、沙月だけは勝利の凱歌をあげるかのようにキラキラしていた。

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