9-1 漂い始める諦めムード
沙月は散乱した漫画や服の山をかき分け、机の上から棚の隅まで視線を走らせた。
そして肩をすくめ、大げさに両手を広げる。
「……でも、この部屋に塩なんて置いてないじゃん!」
一瞬の沈黙。真子は目を見開き、信じられないものを見たような表情で叫んだ。
「な、なんで置いてないんだ……!?」
その場にいた全員の心が「いや置くわけないだろ」と突っ込む。
すかさず沙月と兎子が声を揃える。
「「お姉ちゃん全然役に立たないじゃん!」」
ズバァンとツッコミが飛び、真子の完璧な計画に初めて暗雲が立ちこめた。
部屋の空気が一気に張り詰めた。
先ほどまでのドタバタと笑いは嘘のように、突風妖精との戦いの余韻が胸に重くのしかかる。
真子は腕を組み、険しい顔で窓の外を見やった。
「……このままだと妖精の攻撃が止まらないぞ」
その一言に、沙月と兎子の表情が引き締まる。
沙月は唇を噛み、散乱した部屋をぐるりと見渡す。
「ま、また来るってこと……? いやだよ、もう飛ばされるのは!」
兎子も机の脚をぎゅっと握りしめ、不安そうに呟いた。
「もしまた襲われたら……今度は耐えられるかな……」
再び迫るであろう嵐の気配。
三人の視線が自然と真子に集まり、次の一手を探す緊張感が部屋を支配していった。
部屋の隅から隅までひっくり返したが――結果は空振りだった。
教科書やプリント、突風で散乱したクッションやぬいぐるみ。どこを探しても「塩」の姿は見当たらない。
「……ない。やっぱり海水なんてあるわけないし」
机の下を覗き込んでいた沙月が、肩を落としながらつぶやく。
ベッドの上で座り込んだ兎子も、がっくり項垂れていた。
「そりゃそうだよ。塩なんて料理しないと持ってないでしょ……」
一気に漂い始める諦めムード。
妖精対策の切り札を提示したはずの真子も、腕を組んだまま黙り込むしかなかった。




