8-3 胡散臭さと説得力
沙月の部屋――突風戦争の爪痕がそのまま残るカオス空間。床には散乱する漫画本、脱ぎっぱなしの服、空のプリンカップ。天井付近まで舞い上がった紙くずが、まるで雪のように舞い落ちる。
「……もう、どうなってるの、ここ」沙月は床に座り込み、頭を抱えた。
「お姉ちゃん、やっぱりこの部屋、災害ゴミ置き場じゃん」兎子は髪を逆立てながら、散乱物をかき分けて立っている。
真子は周囲を冷静に見渡し、両手を組み合わせて考え込む。「落ち着け。ここは突風戦闘後の休憩・準備フェーズだ。次の妖精対策を練る時間だぞ」
沙月はまだ放心状態で天井を見上げる。「……休憩っていうか、掃除が先でしょ」
「その前に、まずは妖精対策だ」真子の声には、揺るがぬ決意が宿っていた。
真子は散乱する部屋の中で、床に落ちたプリンカップや漫画本をかき分けると、突然、真剣な眼差しで二人を見つめた。
「塩だ!塩を部屋の四隅に置けば、妖精よけになる!」
その宣言に、沙月と兎子は顔を見合わせる。
「え……塩?」沙月は首を傾げる。
「妖精って、霊みたいなものじゃなかったの?」兎子も首をかしげる。
「霊ではない、妖精だ。そして塩は効く」真子は一点の迷いもなく言い切る。その真剣さに、二人は思わず息を呑んだ。
目的は明確だ――次に襲ってくる妖精の再襲撃に備えるため。
沙月は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「え? 塩? 妖精って……霊みたいなものじゃないの?」
その横で、突風にぐちゃぐちゃにされた髪を直しながら兎子が眉をひそめる。
「なにそれ真子っちゃん、なんか胡散臭くない? 都市伝説に踊らされてるおじさんみたいだよ」
二人の声には半信半疑どころか、ほぼ全否定の色が滲んでいる。だが、真子の真剣すぎる表情が余計に場の空気をコミカルにしていた。
「えぇ……ほんとに塩で妖精よけって……?」と沙月は小声で呟き、ますます混乱していく。
真子は腕を組み、まるで学会で発表でもするかのように真剣な眼差しを向けてきた。
「妖精は塩を嫌う。理由は単純だ――脱水症状になるからだ」
その声色は揺るぎなく、まるで絶対の真理を語っているかのようだ。
沙月と兎子は顔を見合わせ、「えぇ……」と同時に声を漏らす。
「なんかそれっぽいけど……」と沙月。
「逆に怪しい……」と兎子。
胡散臭さと説得力がせめぎ合い、まるで詐欺師と権威者を足して二で割ったような真子の姿に、二人はますます混乱していった。




