5-3 どう見ても小学生じゃん!
「訂正だ、沙月」
真子は淡々と眼鏡を直した。
「狙われてるのは“私たち”ではない。お前ひとりだ」
「そうそう。私、関係ないし」
兎子はすっと立ち上がり、ドアノブを回した。
「じゃあ出るね」
――ガチャ。
「……よし脱出成功」
そう思った瞬間、兎子の足が勝手にクルリと回転。
気づけば次の瞬間――
「ただいま」
彼女は部屋の中へと戻ってきていた。
「兎子ぉぉぉ!! やっぱり戻ってきてくれたんだね! お姉ちゃん信じてたよぉぉ!!!」
沙月は半泣きで飛びつき、妹に抱きついた。
「ちがうって!!」
兎子は必死に引きはがそうとする。
「戻ってきたんじゃなくて、出たのに入ったの! この部屋、外に出られないんだよ!!」
「正解だ」
真子は頷き、ポケットから冷静にメモを取り出す。
「妖精の怒りが頂点に達したことで、この部屋ごと結界に閉じ込められた。つまり――戦場はここだ」
「え、ちょ、やだ……! 私の部屋が実質コロシアム!?」
沙月の悲鳴が、再び渦を巻く突風にかき消された。
「な、なにそれぇ!? ご飯もプリンも食べに行けないじゃん!! トイレだって行けないじゃん!!」
沙月は床を転げ回りながら、命よりも食欲と生活習慣を訴える。
ランドセルを背負った突風の妖精は、鼻でフンッと笑った。
「心配するな! お前らはトイレどころか――この部屋ごとまとめて、俺の突風で空の彼方へ吹き飛ばしてやるからなぁぁぁッ!!」
「ぜ、ぜったいやだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
沙月の絶叫が、風に煽られた散らかったゴミ袋と一緒に部屋を舞った。
――決戦の幕が、完全に上がった。
部屋に仁王立ちしたランドセル姿の小さな影は、誇らしげに胸を張った。
「――俺は突風の妖精だ!」
声のトーンもやけに威厳を込めたつもりらしい。
だが、返ってきたのは冷徹な三人の即ツッコミだった。
「どう見ても小学生じゃん!」沙月が指さして叫ぶ。
「ランドセルと黄色帽子は完全に小学生だよ」兎子が冷静に言い足す。
「義務教育感がすごいな」真子は淡々と結論を下す。
――ズガァン、と音がしそうなほど、妖精のプライドに致命傷。
「ち、違う!俺は妖精だ!しかも突風の、強大な力を持つ妖精なんだぞ!」
必死に威厳を取り戻そうとするが、そのランドセルと黄色帽子がすべてを台無しにしていた。




