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第八章:忍び寄る影 ―― 競馬場の危機

競馬好きのサラリーマン・圭介(35歳)は、交通事故に遭い、魔法と競馬が支配する異世界「エクウス王国」に転生する。 その王国では、魔法馬を駆使した競馬が経済の中心となっていたが、かつて名門だった競馬場「グリーンフィールド」は、経営難と騎手不足で倒産寸前の状態に。圭介は女騎士で支配人のリーナに頼まれ、競馬場再建を引き受ける。

1. 不穏な知らせ


「……なあ、リーナ。ここの経理、ちょっと見せてくれないか?」

事務所の狭い机の上に広げられた帳簿の数字を見つめながら、圭介の眉間に深いしわが寄った。

「どうしたの?」

リーナが顔を覗き込む。

「妙なんだ……賞金と観客収入が増えてるのに、利益がほとんど残ってない」

「えっ? でも、ちゃんと計算は……」

「それはそうなんだが……」

圭介は帳簿の端に書かれた見慣れない支出項目を指差した。


「『管理費』『修繕費』『資材費』……? それにしては金額が不自然に高すぎる」

「まさか……」

リーナの顔が険しくなった。

「ちょっと待ってろ」

圭介はその場を飛び出し、馬房の裏手にある倉庫へと向かった。

錆びた扉を押し開けると、積み上げられた木箱のいくつかが破損しており、中の資材が荒らされていた。


「……誰かが、盗んでやがるな」

圭介が呟いたその瞬間、背後に人の気配を感じた。

「……誰だ?」

「随分と、勘が鋭いな」

振り向くと、そこに立っていたのはラグスと名乗る粗暴そうな男だった。

「てめぇ……何者だ」

「ゴールデンアリーナの下請け業者さ」

「下請け?」

「お前らがダービーに勝ったせいで、俺たちの仕事が減ったんだよ。競馬場が潰れれば、グリーンフィールドもそのうち買収されるって話だ」

「……つまり、お前らがこの競馬場を狙ってるってわけか」

「ま、そういうこった」

ラグスは薄笑いを浮かべ、短剣を抜いた。

「悪いが、ここで眠ってもらうぜ」


2. 闇の襲撃


「チッ……!」

圭介は反射的に飛び退いたが、背中が木箱にぶつかってバランスを崩した。

「逃がさねぇよ」

ラグスが短剣を振り下ろす。

「っ……!」

寸前で身をひねり、辛うじて刃を避けた圭介は、近くに転がっていた棒切れを拾い上げ、構えた。

「へぇ、ちょっとはやるじゃねぇか」

ラグスがにやりと笑う。

「でもな――」


次の瞬間、ラグスの身体が淡く赤い光に包まれた。

「……魔法か!」

「そういうこった」

ラグスの腕が異様に膨れ上がり、鉄の塊のように変化する。

「炎の強化魔法……? こんな奴が競馬場を荒らしてたのか……」

「よく気づいたな。だが、知ったところで――」

ラグスが拳を振り下ろした。

「くそっ!」

圭介は再び身を翻して避けた。拳が床に叩きつけられ、乾いた破裂音とともに木片が四散する。


「こりゃマズいな……」

圭介は必死に逃げ回りながら、視線を倉庫の出口へ向けた。

「逃がすかよ!」

ラグスが再び襲いかかった。

その瞬間――

「蒼風っ!」

外から響いたリーナの声とともに、蒼風が勢いよく倉庫の扉を蹴破った。

「な、なんだこいつは!?」

「行け、蒼風!」

リーナの掛け声に応じ、蒼風がラグスに突進する。

「うわあっ!」

ラグスがバランスを崩し、床に転がった。

「今だ、圭介!」

「おう!」

圭介は飛び出し、リーナと共に倉庫の外へ駆け出した。


3. 明かされた陰謀


「ふぅ……危なかったな」

圭介は息を整えながら、リーナに目を向けた。

「なんでここに?」

「さっき事務所に戻ったら、あんたの姿がなくて。で、まさかって思って来てみたの」

「……助かったよ」

蒼風が鼻を鳴らし、まるで「当然だろ」と言わんばかりに首を振った。


「さて……問題はこいつだな」

圭介が倉庫の中を指差すと、床に倒れ込んだラグスが苦しそうに呻いていた。

「な、なんだ……てめぇら……」

「お前の背後にいるのは誰だ?」

「……知るかよ」

「しらばっくれるな」

圭介はラグスの襟首を掴み上げた。

「お前らの目的は、グリーンフィールドを潰して、ゴールデンアリーナの勢力を広げることだろ?」

「……へっ。そう簡単に勝てると思うなよ……」

ラグスは不敵に笑い、再び意識を失った。


4. 迫る新たな敵


翌日、グリーンフィールドの関係者が集まる会議の場で、リーナが静かに報告を始めた。

「競馬場の資材が荒らされた件は、ゴールデンアリーナ側の関係者が関わっていたみたいです」

「ゴールデンアリーナか……」

支援者の一人が険しい顔をした。

「ダービーでの敗北以来、奴らはこっちの勢力を弱める機会を狙ってたのかもしれんな」

「放っておけば、次は何を仕掛けてくるか……」

「……いや、次はこっちから動くぞ」

圭介がきっぱりと言い切った。


「俺たちがこの競馬場の“価値”をもっと高めれば、どんな妨害をされてもびくともしない競馬場になれるはずだ」

「どうやって?」

「次のレースで、リーフを圧勝させる」

圭介の目は力強く輝いていた。

「俺たちがやってきた競馬の改革……その成果を見せつけてやる」

リーナが微笑み、圭介の肩を叩いた。

「いいわね。やってやろうじゃない」

「おう、異世界の競馬オタクさんよ」

グリーンフィールドの空に、冷たくも澄んだ風が吹き抜けていった。

その風は、新たな戦いの幕開けを告げていた。






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