表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第六章:新たな挑戦 ―― 競馬場再建への道

競馬好きのサラリーマン・圭介(35歳)は、交通事故に遭い、魔法と競馬が支配する異世界「エクウス王国」に転生する。 その王国では、魔法馬を駆使した競馬が経済の中心となっていたが、かつて名門だった競馬場「グリーンフィールド」は、経営難と騎手不足で倒産寸前の状態に。圭介は女騎士で支配人のリーナに頼まれ、競馬場再建を引き受ける。

1. 勝利の余韻と現実


「お疲れさま!」

グリーンフィールド競馬場の小さな事務所に、リーナの明るい声が響いた。

「ようやく、王国ダービーの賞金が入ったわよ!」

机に置かれたのは、革袋に詰め込まれた金貨だった。じゃらりと鳴るその音は、確かに重く、圭介の胸に喜びが湧き上がる。

「これで、なんとか競馬場の立て直しができるな……」

「ま、半分は借金の返済で消えるけどね」

「……だろうな」

圭介は苦笑しながら天井を見上げた。


王国ダービーで優勝したものの、グリーンフィールドが抱える負債は依然として膨大だった。コースの整備費、老朽化したスタンドの修繕、魔法馬の飼育費――残された課題は山積みだ。


「でも、希望は見えてきたじゃない」

リーナは笑いながら、蒼風の馬房を指差した。

「またファンが戻ってきたのよ。『奇跡の復活馬・蒼風』の人気はすごいわ」

確かに、ダービー後の数日で観客は目に見えて増えていた。

「次のレースに向けて、もう何頭か育てなきゃな……」

圭介は厩舎に並ぶ魔法馬たちに目を向けた。だが、そこにはまだ疲れ切った馬たちが多く、蒼風のように完全に回復している馬は数えるほどだった。

「俺たちの仕事は、ここからが本番だな」

「そうね」

リーナはうなずき、顔を引き締めた。


2. 新たな馬、そして新たな問題


「この仔馬、なかなか素質があるわよ」

数日後、リーナが圭介に紹介したのは、淡い緑色の毛並みを持つ魔法馬だった。

「名前は《リーフ》よ。まだ若いけど、風属性の素質があるの」

「いい馬だな……」

圭介がリーフの毛並みに触れると、緩やかな風が肌をかすめた。

「この仔を蒼風みたいに鍛えれば、次のエースになれるかもしれない」

「そのためには、まず厩舎の設備を整えなきゃな」

「それが問題なのよね……」

リーナの顔が曇った。


競馬場の再建には金がかかる。賞金と観客動員が増えても、それはまだわずかな額にすぎなかった。

「イベントを開いて集客を増やすしかないな」

「イベント?」

「そうだ。たとえば、ファンとの交流会とか、魔法馬のデモンストレーションとか……」

「それなら、蒼風を目玉にすれば大勢来るはずよ!」

「いや、それは危険だ」

圭介は即座に首を振った。

「蒼風はまだダービーの疲れが残ってる。無理させたら、また調子を崩すかもしれない」

「……確かにね」

リーナの笑顔が消えた。


「でも、何もしなければグリーンフィールドはまた潰れる……」

「だから、別の方法でやるしかないさ」

圭介は思案しながら、ふと《リーフ》の穏やかな瞳を見つめた。

「……よし、リーフをデビューさせよう」

「え? でも、リーフはまだ若いのよ?」

「だからこそ、将来のスター候補として話題にできるんだ。リーフの可能性を見せれば、ファンはきっと興味を持ってくれる」

「……なるほど」

リーナは納得したようにうなずいた。

「じゃあ、さっそく調教ね!」


3. 《リーフ》の特訓開始


「いくぞ、リーフ!」

数日後、コース上にリーナの声が響いた。

リーフはリーナの指示に応え、軽やかな足取りで走り出した。

「……悪くないな」

圭介は目を細めながらリーフの動きを見守った。


だが、次の瞬間――

「わっ!」

突風が吹き抜け、リーフが足を滑らせて横に倒れ込んだ。

「リーフ!」

リーナが駆け寄り、リーフを助け起こした。

「大丈夫か?」

「平気よ、でも……」

リーフは不安そうに耳を伏せ、震えていた。

「リーフはまだ“風に乗る”感覚が身についてないんだな」

「どうすればいいの?」

「まずは、風と自分の体のリズムを合わせる練習だ」

圭介はリーフの横に立ち、その首筋に優しく手を添えた。

「リーフ、お前の力を信じろ……」

静かに語りかけると、リーフの震えは次第に収まっていった。

「……きっとやれるさ」


4. 再建への第一歩


「リーフ、デビュー戦の登録が完了したわよ!」

数週間後、リーナが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「これで、グリーンフィールドの再建に一歩近づいたな」

「ええ……でも、その一歩が大事なんでしょ?」

「その通り」

圭介は笑い、厩舎に目を向けた。


蒼風は静かに目を閉じ、リーフは穏やかに草を噛んでいた。

「……あいつらがいれば、きっと大丈夫だ」

「そのためにも、あんたはしっかり働いてもらうからね」

「へいへい、支配人さま」

軽口を交わしながら、圭介は競馬場の広いコースを見つめた。

まだ、観客席は閑散としている。だが、そこに新たな希望が生まれつつある。

「よし、これからが本番だな……!」


風が吹き抜け、草が揺れた。その音は、まるでグリーンフィールドが新たなスタートラインに立ったことを告げるようだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ