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第三章:迫る強敵

競馬好きのサラリーマン・圭介(35歳)は、交通事故に遭い、魔法と競馬が支配する異世界「エクウス王国」に転生する。 その王国では、魔法馬を駆使した競馬が経済の中心となっていたが、かつて名門だった競馬場「グリーンフィールド」は、経営難と騎手不足で倒産寸前の状態に。圭介は女騎士で支配人のリーナに頼まれ、競馬場再建を引き受ける。

1. 最強騎手・ガラハドの宣戦布告


「なるほどねぇ……お前が“異世界の知恵者”か」

低く響く声が、静まり返ったグリーンフィールド競馬場に不気味に響いた。

「……誰だ?」

厩舎の入口に立っていたのは、黒い騎士鎧をまとった男だった。

整った顔立ちに冷たい眼差し。肩まで伸ばした金髪は艶やかに輝いていたが、その余裕めいた微笑みが何より不気味だった。


「お前が……ガラハドか」

「覚えてくれていて光栄だよ」

男――ガラハドは、皮肉げに笑った。

王国最大の競馬場「ゴールデンアリーナ」に所属し、無敗の最強騎手と名高い男。彼が騎乗する炎属性の魔法馬インフェルノは、その爆発的な加速力で幾多の強敵を打ち破ってきた。


「こんなボロ競馬場がまだ潰れていなかったとは驚いた。ま、王国ダービーに出るならちょうどいい。お前の“改革”とやらがどれほどのものか、楽しみにしてるぜ」

「……そのために、わざわざここまで来たのか?」

圭介がにらみつけると、ガラハドは鼻で笑った。

「いや、ただの挨拶さ。どうせレースじゃ俺が勝つんだ。……だがな」

彼はふと目を細め、蒼風の馬房に視線を移した。


「この馬……《蒼風》か。まさか、こいつで俺に勝とうなんて思ってないだろうな?」

「何が言いたい?」

「こいつがかつての名馬だったのは知ってる。だがな……」

ガラハドが笑みを消し、圭介に鋭く言い放った。

「そんな“昔の名前”だけじゃ、俺には勝てねえよ」

その言葉を残し、ガラハドは踵を返した。

「覚悟しとけ、異世界の知恵者さんよ」

その背中を見送りながら、圭介は静かに拳を握りしめた。


2. 《インフェルノ》の恐るべき力


翌週、ガラハドと《インフェルノ》の走りを見た圭介は、思わず息を呑んだ。

「……速すぎる」

グリーンフィールドのコースを貸し切って行われたデモンストレーション。そこに現れたインフェルノは、圧倒的な炎の軌跡を残しながら駆け抜けた。

「炎そのものが走ってるみたいだな……」

インフェルノの蹄が地面を蹴るたび、焦げたような跡が残り、炎の魔法が舞い上がる。その速度は異常だった。コーナーの切れ味、ストレートでの爆発的な加速、すべてが完璧に仕上がっていた。


「ガラハドめ、調子に乗って……!」

リーナが悔しそうに歯ぎしりした。

「やっぱり、あの馬には勝てないのかな……」

「いや、勝てる」

圭介は確信するように言った。

「勝てるのか!?」

「……ただし、蒼風の特性を最大限に引き出せれば、の話だけどな」


3. 《蒼風》の真価を引き出す策


「風の“流れ”を操る……か」

圭介は、魔法理論の書物を前に頭を抱えていた。

蒼風は風属性の魔法馬。その強みは「風を読む」能力にある。だが、インフェルノのように圧倒的なパワーで押し切るタイプの相手に対し、単純なスピード勝負では勝ち目が薄い。


「どうすりゃ……」

そんな時、ふと窓の外で舞い上がる枯れ葉が目に入った。

「……風に“乗る”んじゃない。風を“作る”んだ」

圭介の頭の中で、一つの答えが形になった。


「リーナ、特訓だ。蒼風には“風をまとった走法”を覚えさせる」

「風をまとった……?」

「そうだ。蒼風の魔法を使って、自分の周囲に風の渦を作るんだ。そうすれば、外の風に左右されずに加速のバランスを整えられる」

「そんなこと……できるの?」

「やるしかない」


訓練が始まった。

「いくぞ、蒼風!」

リーナが合図を出し、蒼風は勢いよくコースを駆ける。

「もっと、風を……!」

圭介は声を張り上げ、魔法の風が蒼風の周囲を渦のように巻き始める。

「いいぞ、そのまま!」

風が蒼風の体を包み、馬体の揺れが次第に収まっていく。まるで空気のクッションができたかのように、蒼風の走りが一段と滑らかになった。

「……できた!」

「これなら、インフェルノにも……!」


その夜、厩舎に戻った圭介は蒼風の頭を優しく撫でた。

「……信じてるぞ、蒼風」

蒼風は静かに目を閉じ、まるでそれに応えるかのように鼻を鳴らした。

「やってやろうぜ」

その言葉は、静かな誓いのように厩舎に響いた。






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