表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第二章:魔法馬の再生

競馬好きのサラリーマン・圭介(35歳)は、交通事故に遭い、魔法と競馬が支配する異世界「エクウス王国」に転生する。


その王国では、魔法馬を駆使した競馬が経済の中心となっていたが、かつて名門だった競馬場「グリーンフィールド」は、経営難と騎手不足で倒産寸前の状態に。圭介は女騎士で支配人のリーナに頼まれ、競馬場再建を引き受ける。

1. 《蒼風》の再起への挑戦


「……ひどいな」

圭介は《蒼風》の身体を指先でなぞった。

痩せ細った肋骨は浮き上がり、たてがみはぱさつき、毛並みは艶を失っていた。さらに、脚の関節部分にはうっすらと炎症が見え、わずかに熱を持っている。


「これは……腱炎か」

「知ってるの?」

リーナが驚いたように顔を上げた。

「人間のスポーツ選手でいえば、筋断裂みたいなもんだよ。痛みが抜けても、無理に走れば再発する可能性が高い」

「……やっぱり、もう走れないの?」

「いや、まだ可能性はある」

圭介は迷いなく言い切った。


「けど、やり方を間違えれば確実に潰れる。時間がかかるし、リスクもある……それでも、やるか?」

「……もちろんよ」

リーナの声には、迷いがなかった。

「だったら協力してくれ。リハビリには毎日の積み重ねが大事だ」

「もちろんよ、異世界の競馬オタクさん」

リーナの笑みを見て、圭介は小さく笑い返した。


翌日から、圭介は《蒼風》の再起に取り組み始めた。

「まずは関節の負担を減らすところからだな」

圭介は地面に厚く敷き藁を敷き、蒼風が動きやすい環境を整えた。さらに、筋肉の柔軟性を取り戻すための「魔法ストレッチ」を試みた。

「痛みが強くなるようなら、すぐに止めるぞ」

手のひらに回復魔法の青い光を灯し、圭介はゆっくりと蒼風の脚を伸ばし始めた。


「……大丈夫そうだな」

蒼風は目を細め、苦しげな表情も見せない。

「この調子で、少しずつやっていこう」

圭介は、筋肉をほぐすマッサージと魔法ストレッチを繰り返しながら、蒼風の状態を見守り続けた。


「やれるもんだな……」

数週間後、蒼風は立ち姿に力強さを取り戻していた。背筋はまっすぐに伸び、たてがみの艶も蘇ってきた。

「ずいぶん良くなったじゃない!」

リーナが嬉しそうに蒼風の首を撫でる。

「でも、ここからが正念場だ」

圭介は慎重な表情のままだった。


「筋肉がついてきても、レースではスピードと持久力の両方が求められる。次は調教だな」

「調教なら任せて。あたし、あいつの騎手でもあるんだから」

リーナは得意げに胸を張った。

「おう、頼んだぞ」


2. 調教開始――風をつかむ走り


「いくわよ、蒼風!」

リーナが声を張り上げると、蒼風は地面を蹴って駆け出した。

――バッ!

その瞬間、風が生まれたかのように砂埃が巻き上がった。

「……すげぇ」

圭介は思わず息をのんだ。蒼風の走りには、普通の馬にはない独特のリズムがあった。まるで風そのものが身体を押し上げているような軽やかさ。それが風属性の魔法馬の力なのだろう。


「でも……まだ足りないな」

蒼風の動きは鋭く、スピードも十分だったが、どこかぎこちなさが残っていた。


「リーナ、いったん戻ってこい!」

数周したところで、圭介は手を上げてリーナを呼び止めた。

「何よ? かなり調子いいじゃない」

「いや……蒼風のバランスがまだ崩れてる。脚の回転が早すぎるんだ。もっと、風を“受ける”感覚を意識してみろ」

「風を受ける?」

「そう。力任せにスピードを出すんじゃなく、風の流れを感じて走るんだ。まるで、風に乗るように」

「……なるほどね」

リーナは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「やってみる」

再びスタートラインに立つと、リーナは蒼風の首筋を軽く叩いた。

「いくわよ」

次の瞬間――

――ヒュウウウウッ!

蒼風が走り出すと同時に、突風が巻き起こった。

「……いいぞ、そのままだ!」

蒼風は無駄のない動きで加速し、コーナーを流れるように駆け抜けていく。

「これが……蒼風の走りか」

リーナが背中越しに見せた笑顔は、誇らしげで、そしてどこか懐かしさを感じさせた。


3. 一筋の光

「圭介!」

練習が終わったあと、リーナが駆け寄ってきた。

「なあに?」

「これ……見てよ」

リーナが手にしていたのは、一通の招待状だった。

「《王国ダービー》の出場申請が通ったんだ!」

「マジか!」

圭介は思わず声を上げた。

《王国ダービー》は、王国中の競馬場が誇る名馬たちが集まる最大のレースだ。ここで勝てば、グリーンフィールドの名は再び広まる。

「……いよいよだな」

圭介はふと、蒼風が静かに厩舎の中でこちらを見つめているのに気づいた。

その青い瞳には、再び燃えるような輝きが戻っていた。

「よし、やってやろうぜ、蒼風」

圭介がつぶやくと、蒼風は静かに首を振った。まるで「任せろ」とでも言うように。

「……期待してるわよ、異世界の競馬オタクさん」

リーナの言葉に、圭介は軽く笑った。

「おう、楽しみにしとけ」

再び熱気が戻りつつあるグリーンフィールド競馬場。

その片隅で、蒼風の青いたてがみが、静かに風に揺れていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ