表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/58

悪魔のささやき

まさか、二人がここで抜けるなどというのは、全く予想すらしていなかった。むしろ、この二人がいたからこそ、自分よりも腕のいい二人がいたからこそ、王女様を連れて行けると判断したのだ。今のこの状況を、イリノはなかなか理解ができなかった。カーサとスウゴは相変わらず淡々とした表情を浮かべている。


「俺たちは緊急徴兵された兵士だ。別にあのお姫様に義理はねぇからな」


カーサが口を開く。


「それに、これ以上あの王女と行動を共にしても、命の危険があるだけで、俺たちに旨味は全くないからなぁ」


スウゴも両手を挙げながら首を左右に振っている。


「イリノ」


カーサが真剣な表情を浮かべている。気配が一変している。イリノは思わずゴクリと唾を飲んだ。


「これは俺の正直な気持ちだ。俺は、お前は見込みのあるやつだと思っている。評価している。どうだろうな。お前も俺たちと一緒に来ないか?」


「来ないかって、どこにだよ……」


「なぁに。何にも心配することはない。別に売り飛ばそうってわけじゃない。もっとも、男なんざ売り飛ばすところなんてそうないけれどな。別に盗賊をやろうというわけではない。世界中を旅するのだ」


カーサの言葉に、スウゴがクスクスと笑っている。一体二人は何を目的としているのかがわからず。何とも不気味だ。


「いや、俺は本気で言っているのだ。お前はスジがいい。体も強い。剣の才能もある。頭もそれなりにいい。実戦で鍛えていけば、相当な男になるだろう。俺たちと一緒に来い。俺はお前に、俺の持っているもの全てを教えてもいいと思っているのだ。それは、スウゴも同じだ」


「お……王女様は、どうするんだよ」


「そのことだ」


カーサとスウゴは互いに顔を見合わせると、再びイリノに視線を戻した。


「王女の命を奪って、その首をカイルラルに持っていけば、それなりの金が貰えるが……」


「ちょっとアンタ、何言ってんだ」


「俺たち三人で腹ぁ散々好き放題して、飽きたら娼館に売り飛ばすというのが、一番儲かる方法だぁ。ま、この山ン中じゃ娼館に売り飛ばすことはできねぇがな」


スウゴがニヤニヤと笑いながら口を開く。


「おっ、俺はいいよ……」


「なんだ、まだあのウサギ獣人の女を思っているのか? しょうがない奴だな。ウワッハッハッハッハ!」


カーサは仰け反るようにして豪快に笑った。そう言われてみて初めて彼は、サーヤさんのことを思い出した。王都を出てからというもの、目まぐるしく状況が変わり、必死で対応していたために、彼女のことを考える余裕がなかった。あれほど心を占めていた彼女のことを忘れていたことに、イリノ自身も少し驚いていた。


カーサは笑いながらイリノの肩を抱いてきた。


「そんな女のことは忘れてしまえ。そういうことは、女を抱けば忘れてしまうものだ。ちょうどいい。先ほど、スウゴとも話をしたのだが、あの王女様をお前にやろう。好きにしたらいい」


「ど……どういうことだよ」


「そういうことだ。見たところ、あまり目がよくないらしいな。だったら簡単だ。砂でも投げて見えなくしておいて、あとは力づくでモノにすればいい。ちょっと鎧が面倒くさそうだが、お前の力なら十分に組み敷けるだろう。王女というからには、まだ生娘だろう。男になるにはこれ以上のものはない」


「おっ、俺は、別に……」


「まさか、やり方がわからないなんて言うんじゃないだろうな。お前は見ていただろう。いや、むしろ、お前に見せつけていたというのが正しいのかもしれんがな」


「……」


「無理するな。己の欲望の通りに生きるのだ。俺たちはそれができるし、それが許されているのだ」


「ちょうどお姫様はいま、お休みのようだ。おあつらえ向きじゃねぇか。今の間に、鎧と服を脱がしちまって、裸にひん剥いちまえばいい。何なら手伝ってやろうか?」


スウゴが下卑た笑みを浮かべている。


「本来ならば、あのお姫様は俺たちがいただいてもよかったんだ。でもなイリノ。先ほども言ったように、俺はお前のことを見込んでいる。お前を仕込んでみたいと思っている。だから、あの女をお前にやろうと言っているんだ。俺の言っている意味が、男のお前ならば、わかるはずだ」


カーサが相変わらず肩を抱きながら、まるで諭すように言い立てる。イリノはその言葉に対して、何も言葉が出てこなかった。


「そうとわかったら、さっさとあのお姫様のところに行って来い。俺たちは食料を探してくる。帰って来るまでに済ませておけ。後でお前が男になった祝いをしようではないか」


「その後は俺が賞味するから、殺すんじゃないぞ」


「何でお前なんだ」


「いいじゃねぇか。たまにはこのスウゴ様にもいい思いをさせろよ。こっちはお前たちが出かけた後、あの大佐に散々こき使われてえらい目にあったんだ。その借りは返してもらうぜ」


「フッ、仕方がねぇな。ではイリノ、行ってくる」


カーサはそう言うと、スウゴを伴って山を降りていった。


二人の姿が見えなくなると、イリノは呆然としたまま王女様の許に戻った。彼女は大岩にもたれかかるようにして眠っていた。その表情は、まるで少女のように穏やかなものだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ