表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/58

暗闇の死闘

「誰か、魔法を扱える者! ライトを出せ!」


ルエネス大尉の声が聞こえる。しばらくすると、小さな光が闇の中に現れた。大尉の端正な顔がその中に浮かび上がった。


「どうしました?」


イリノが大尉の傍に行くと、そこには男の遺体が仰向けに転がっていた。それは、王国軍の服を着ていた。


「……どうして我が軍の兵士が倒れているのだ」


大尉は立ち上がると周囲を見廻した。そのとき、何かが飛んでくる音が聞こえた。


「伏せろ!」


誰かが叫ぶ。イリノはその言葉に反応することができなかった。突然、何か強い力に引っ張られるようにして地面に組み敷かれる。ルエネス大尉だった。華奢に見えたが、意外と力があるのだな、などと考えていると、周囲に矢が刺さった。


「敵襲だ! ライトを消せ! 散開ィ!」


大尉の声が聞こえたその瞬間、周囲は再び闇に包まれた。一瞬の間をおいて、再び矢が降ってきて周囲に刺さった。イリノは立ち上がり、脱兎のごとく走り出した。おそらく数秒後にはまた、矢の雨が降ってくることだろう。それまでに、その攻撃範囲から離れねばならない。


矢の音が聞こえる。その場に蹲り、両手で頭を抱える。音が止むと走り出す。どこをどう走っているのかはわからないが、音を聞く限りでは、矢の攻撃範囲からは離れているようだった。


腹ばいになって周囲を見廻す。呼吸を整えながら耳に全神経を集中させる。遠くの方でバタバタと何やら音がする。襲われているのか、戦っているのか、それとも逃げまどっているのかイリノには判断できなかったが、ともかくもこの場にはいない方がいいと本能的に感じて、その状態のままゆっくりと後退する。そして、音が聞こえなくなると、立ち上がってそのまま駆けだした。


どのくらい走っただろうか。遠目に森の木々が見えた。敵に襲われたらとりあえずあそこに逃げ込めばいいと、その場に座り込む。


……敵襲ってか。何もこんな夜中に襲うことはないだろうに。ツイてないな。


そうは思ってはみたものの、よくよく考えれば、このまま逃げてしまえばいいのではないか。逃げたとしても、誰も追って来る者などいないだろう。自由になれたのだ。そう考えると、嬉しさがこみあげてきた。


「いや、もしかしたら、仲間が近くにいるかもしれねぇ。とりあえず、明るくなるまで様子を見るか」


誰に言うともなく呟く。周囲の音に注意をしながら、再び腹ばいになる。誰もこっちに来てくれるな、明るくなって、周囲に誰もいなければ、すぐに走り出して逃げよう。そんなことを考えていたそのとき、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる足音が聞こえた。思わず体が震える。


このまま走って逃げてしまおうかという考えと、動くと、手に持っている剣が少なからず音を立てたり、足音が鳴ったりして、敵に存在を知られることになる。ここでやり過ごすべきだという考えが頭の中をめぐる。足音はなおもこちらに近づいてくる。


すぐ傍で足音が止まる。鎧を着こんでいるのだろう。カシャカシャと鉄が触れ合う音がする。間違いなく、兵士だ。カーサかスウゴであれば安心できたのだが、二人ではないことは確かだった。ただ、ここからでは敵か味方かは判断できない。たとえ味方であったとしても、イリノは名乗り出る気はさらさらなかった。それはそれでまた、兵隊生活に戻るだけで、下手をするとあの、大佐野郎のときのように奴隷のような扱いを受けるだけだ。


一瞬の間をおいて、ヒュン、ヒュンと風を切る音がした。最初は何だかわからなかったが、兵士の動きからは、どうやら腰に差している剣を抜いて、それを振り回しているようだった。どうやら向こうもこちらの存在には気づいているらしい。この段階で、イリノは相手を敵だと認識した。


味方ならば何らかの声をかけるはずだ。そこに誰かいるのかとか、小隊長殿とかいった声は聞こえてこない。つまり相手は自分を明確に敵と認識して、命を奪いに来ていることになる。


すぐにその場を離れなかったのを心から後悔した。今からでも遅くはないと考えながら態勢を変えて、座ったままの状態でゆっくりと後ずさりをする。手に持っている剣を抜いて相手と立ち会おうかとも考えたが、勝てる気はしなかった。むやみやたらと振り回しているように見えるが、相手は正確にこちらと距離を詰めながら剣を振っている。それなりの腕であると考えてよかった。森の中に入ってしまえば、こちらの存在を秘匿しやすくなる。うまくすれば、スキを突いて倒すことも可能だ。だが、相手はじわじわとこちらとの距離を縮めてきていて、このままでは本当に斬られかねない状況になりつつあった。


思わず立ち上がって走り出す。相手は鎧を装備しているようだし、さらには重い剣を振るっている。こちらは剣を持ってはいるが、鎧は着込んでいない。十分に引き離せるはずだ。


「そこにいるのは、わが軍の兵士か!」


突然声が聞こえてきて立ち止まる。声の主は、女性だった。


……もしかして、王女様?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ