おじさん
それから二日後、イリノは王都近くの町であるサラギに到着した。たまたま草原を歩いていたときに商人が手配した荷馬車に遭遇し、交渉上手な彼はまんまとその荷台に乗せてもらってここまでやって来たのだった。
彼はまず宿屋に行って寝床を確保すると、早速外に出て町を見て廻った。王都まで馬で飛ばせば数時間で行けるという立地の良さもさることながら、近くの川から水を引き入れて水路を作り、そこを悠々と船が行き交っていた。何とも趣のある景色に見とれながらも、彼はこのサラギという町の中で売られている珍しい品物と、多くの人が行き交う様子に、興奮を隠しきれなかった。
町は高い城壁で囲まれていたが、その城壁付近まで来ると家や建物は少なくなり、変わって粗末な筵を引いただけの露店が並んでいた。そこでは、食べ物や衣服などを売る店がある一方で、欠けた皿などのいわゆるガラクタを売る店や、何だかよくわからない怪しげな薬を売る店なども見られ、混とんとした様相を呈していた。
イリノはざっとそれらの店を見て廻ると、目の前の男に話しかけた。
「……いらっしゃい」
「一つ聞きたいんだけれども、いいかな?」
「……何だい」
「ここに店を出すのには、どこに言いに行ったらいいんだい?」
「別に許可を取る必要はねぇよ。開いている場所がありゃ、どこで何を売っても構わねぇ」
「そうかい。ありがとう」
「おい坊主、お前年は幾つだ」
「十五歳だ」
「それなら、ギルドに登録しておくこったな」
「ギルド?」
「ギルドに登録してりゃ、何か揉め事があったときに間に入ってくれる。お前みたいな年端も行かねぇガキは、狙われる可能性がある。悪いことは言わねぇ。ギルドに登録しておきな。ほれ、あそこに大きな石でできた建物があるだろう。あれがギルドだ」
「……うん。わかった。ありがとう。俺はイリノってんだ」
「そうかい」
「おじさんは?」
「ヘッ、また会った時に教えてやらぁ」
そう言って男はへらへら笑った。彼は何やらよくわからない、木でできた人形のようなものを売っていた。少し不気味な感じがしたが、イリノはその男の持つ雰囲気は嫌いではなかった。彼はもう一度礼を言うと、ギルドに向かって歩いて行った。