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惨状

サラギの町には、思ったよりも早く到着することができた。しかし、町からは幾筋もの黒い煙が立ち上っており、イリノはイヤな予感がしてならなかった。


「ありぁー」


馬を操っていたカーサが頓狂な声を上げた。彼の背中越しに見てみると、町の城壁はあちこちが破壊されていた。


「すまねぇ、ありがとう」


町の入り口に着くと、イリノは馬から飛び降りて走った。そこはこの町に来た当初、露店を出していた地域だったが、店らしきものは一切なく、壁際に死体が積まれていた。広場には疲れ切った様子の者たちが座り込んでいる。一瞬、サーヤさんももしかしたらあの中に、などと思ったが、そんなことはないと自分に言い聞かせて足を速める。彼女はギルドにいるはずだ。一刻も早く、一瞬でも早く彼女の許に向かいたかった。だが、いつもは近くに感じたギルドまでの距離が、今日に限って遠くにに感じていた。走れども走れども、ギルドへは辿り着かなかった。


町はあちこちが焼け焦げていた。一体誰が、と思ったが、サラギの町はかなり大きい町だ。この町をこれだけの状態にするのは、そこいらの盗賊にはできないことだ。ということは、あの、カイルラル軍がやったことは確実だった。だが、カイルラルとの戦いはつい、昨日のことだ。たった一日であの峠からこの町に来ることは不可能だ。ということは、この町にも裏切り者がいたということだろうか。そんなことを思ってみたが、今の彼にはそんなことはどうでもよかった。ただ、サーヤさんのことだけしか頭になかった。


ギルドが見えてきた。そこは特に被害があるようには見えす、いつもと変わらぬ様子だった。扉を開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。扉を叩いてみたが、反応がない。中には誰もいないようだ。


もしかして彼女は、襲われたのだろうか、殺されたのだろうか、いや、どこかに避難してくれているのだろうか……などと、色々な考えが頭を巡る。


「どうした。お前の彼女、見つからないな」


追いかけてきたカーサが周囲を見廻しながら口を開く。イリノはいても立っても居られずに、その場を離れた。


足を向けたのは、マリノラと一緒に出していた店だった。その、マリノラのことも気にかかる。そのとき、


「イリノ! イリノじゃねぇか!」


すぐ近くでマリノラが手を振っていた。思わず彼の許に駆け出す。


「お前……死んだんじゃなかったのか!」


「死ぬもんか。でも、何で町がこんなことになっているんだ?」


「よくわからねぇんだ。いきなりカイルラルの軍勢が現れて、町を攻撃し始めたんだ。バカでかい石を投げてきて、城壁を壊し始めたんだ。そのうちに兵隊たちが町に入ってきて、火をつけて人々を殺していきやがった……」


「他の人たちは?」


「わからねぇ。俺はたまたま革細工の店で切れ端を貰いに行っていたんだ。あそこは地下があってな。そこが倉庫になっているんだ。切れ端と余った革を籠に詰めていたら、上で悲鳴が聞こえてな。驚れぇて足が震えちまったが、静かになったから出てみたら、工房の連中が……。あいつら工房ン中に松明投げ込みやがって……必死で消したんだ」


「マリノラ……よく生きててくれた」


「おおよ。運だけはいいンだ。お前ぇもお前ぇよ。噂によると、緊急徴兵された者は王都防衛隊に廻されたが、カイルラルの攻撃で全滅したって話しじゃねぇか。お前ぇもてっきりあの世ぉ行っちまったんじゃねぇかって……」


「いや、俺は選抜隊に入ったんだ。別の任務に就いていた」


「そうか……。でも、それじゃ、ジークリフトは……」


「いや、それよりもマリノラ、サーヤさんはどうなった? ギルドに行っても閉まっていたんだ」


「サーヤさんか……無事ではいるが……」


「いるが? いるがどうなんだ? まさか、ケガでも……」


「いや、そういうわけじゃねぇんだが……。近くに避難しているんだ。来な」


マリノラの後ろを黙って付いていく。その彼の後ろでカーサが、


「ほほう。焼き討ちにあっても、これだけの被害で済んでいるとは大したものだ。なるほど、水路が走っているから、消火に使う水には不自由しなかったのだな。察するところ、町中の者たちが必死で消火活動に当たったのだろう」


と頻りに感心している。これまであった建物のあちこちが焼けてしまっている中で、この程度とは何ということを言うヤツだと心の中で思ったが、敢えて何も言わないことにした。


「ここだ」


着いたところは、大きな倉庫だった。確かここは、水路を使って荷出しするための物資が置かれている場所だった。マリノラは、頑丈そうな扉を一気に引き開けた。そこには、夥しい数の人々が座り込んでいた。いきなり扉が開いて光と風が一気に流れ込んだため、人々は一様にまぶしそうに手を顔にかざしたり、寒さを凌ぐために体を縮めたりしている。そんなことなどは知ったことではないと言わんばかりに、マリノラは中を見廻す。


「あそこだ」


彼が指さす先には、壁に体を預けながら呆然を座り込むサーヤさんの姿があった……。

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