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サラギへ

このアルフレッドと名乗る大佐は、折に触れて威張り散らし、イリノたち兵士をまるで自分の奴隷であるかのごとく扱った。軍紀上、上官の命令は絶対服従と厳しく教育されている兵士たちは、唯々諾々としてその指示に従ったが、イリノたちはその仕打ちを苦々しく思っていた。


彼は歩くのに疲れたと言って、馬を調達して来いと命じた。馬などいるはずもない。王都に行けば占領しているカイルラル軍のものがあるだろうが、そこは現在封鎖されており、しかも敢えてそこに行くというのは自殺行為以外の何物でもなかった。


森を抜け、広い草原のなか、王都を遠めに見ながら兵士たちはアルフレッドの命令を遂行しようと右往左往していた。それでも馬は見つからず、業を煮やした大佐は怒りを爆発させ、何をしているのだと言って、兵士の一人を蹴り飛ばした。


「馬を都合するアテがあります。ちょっとだけ、お待ちください」


イリノは思わず声を上げた。


「何ィ? それならばなぜ最初から言わんのだ!」


「大佐殿がどちらに進路を取るのかを見ておりました。私の知り合いのいる方向に進まれていますので、そこならば、と考えた次第です」


「バカか貴様は! ここの者たちは揃いも揃ってバカばっかりだな。心当たりがあるのなら、どうして進路を聞かんのだ!」


「しっ、つれいしましたっ!」


イリノはそう言って頭を下げたが、腹の中では殺意にも似た感情を抱えていた。


「ようし! 一時間だけ待つ。それまでの間に、馬を都合して来い」


「承知しました」


「お待ちください、大佐殿」


「なんだ、カーサ」


「私もお供したく存じます。この辺りは敵も多うございます。小隊長殿一人では、苦戦する場面もありましょう。可能性は極めて少ないですが、小隊長殿が逃亡することも考えられますので……」


「では、お前も付いていくのだ。一時間しか待たぬ。すぐに行け」


イリノとカーサは一緒になって駆けだした。その様子をスウゴがなんともいえぬ顔つきで見送っていた。


◆ ◆ ◆


「おいお前、上手いことを考えたな」


「何が」


「まんまと上手く逃げおおせたじゃねぇか」


「逃げたんじゃねぇ」


「まさか、本当にあのバカのために馬を調達しようとしているのか?」


「バカ言え。そんなわけがあるもんか。俺は、ただ、サーヤさんの許に……」


「ハッハッハ! どこまでも面白いやつだ。お前についてきて正解だったようだ」


そう言ってカーサは走りながら笑った。


毎日の訓練で十キロを走っていた彼らには、走ることはそう苦ではなくなっていた。だが、サラギまで走るとなると、数時間は走らねばならない。今日中にたどり着けるだろうかと考えていたイリノに、カーサが声をかける。


「おい右、敵襲だ」


見ると二人の騎兵がこちらに向かってきていた。二人とも槍を装備している。


「貴様らどこの者だ!」


馬を操りながら騎兵の一人が叫ぶ。そのとき、カーサが立ち止まり、追いかけてくる騎兵たちに向き直った。


おい、危ないぞ、逃げろと言おうとしたときはもう遅かった。騎兵の一人が、カーサに槍を突き出していた。


だが、彼はその槍を手で掴むと、そのまま兵士を馬から振り落とした。背中からたたきつけられたために、兵士は小さなうめき声をあげた。


「貴様っ!」


もう一人の兵士が槍を繰り出してきたが、カーサはそれを見事に躱し、主人を失った馬に飛び乗ると、襲ってくる兵士の膝の部分を槍の柄で突いた。


「ぐあっ!」


フルフェイスの兜をかぶっているために表情はわからないが、その声から相当の痛みを与えたのはよくわかった。カーサはさらに槍の柄で兵士の喉元を突いた。その瞬間、兵士の体は宙を舞っていた。


「イリノ、乗れ!」


カーサは顎をしゃくる。


「いや、俺、馬に乗ったことがない……」


「しょうがねぇなお前は。ほら、来い!」


カーサが手を伸ばす。その手を握ると彼はものすごい力でイリノを馬上に引き上げた。


「すまんが、馬を借りていくぞ」


そう言ってカーサは足で馬の腹を蹴った。


「ハッハッハ。おあつらえ向きだ。こっちの方が、走るよりはるかに進めるってもんだ。それに、これはいい馬だな。コトが済んだらあの大佐野郎にやろうと思っていたが、ちょっと惜しくなるな。コイツはすこぶる足が速い」


「……アンタ、いったい何者なんだ?」


「何物でもねえよ。ま、このくらいの腕がなけりゃ、この世界では生きていけねぇってことさ。で、どこに行けばいいんだ?」


「……サラギだ」


「サラギぃ? すぐそこじゃないか」


そう言ってカーサはさらに馬の速度を上げた……。

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