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サーヤさんも、同じ?

突然、女性の短い叫び声と、カーサと思われる男のうめき声が同時に聞こえた。視線を向けると、そこには女性の上に覆いかぶさるようになっているカーサの姿があった。二人ともハアハアと激しい息をしていた。男は女性の顔を見ながら満足げな表情を浮かべている。一方の女性も、視線は宙を泳いでいるが、呆然と、しかし、満足げな表情を浮かべていた。


カーサはゆっくりと立ち上がると、ベッドの傍に行き、枕許に置いてあった瓶をグイッと煽った。彼は大きく息を吐くと、再び瓶を煽った。


「いま終わったばかりだってのに、よく酒なんか飲めるねぇ」


マシェラは呆れた表情を浮かべている。カーサは余裕のある笑みを浮かべながら、ドカリとベッドに腰を掛けた。


「なぁに、夜はこれからだ」


「まだやろうってのかい。アンタ、事と次第によっちゃ追加料金を貰うからね」


「勝手にしろ。この女も、まだまだこんなもんで終わるわけはないだろう」


そう言って彼はゆっくりと酒を煽った。


「ところで、ソイツはもう男になったのか?」


「ダメだね。私じゃダメなんだってさ」


「ほう。それは珍しいな。何だ、あまりにもきれいなお姉さんが来たので、緊張してしまったか? ハッハッハ」


「いいえ。この坊やには、好きな人がいるんだってさ」


「ほう。数か月間ずっと同じ部屋で生活してきたが、そんな話は初めて聞いた。どんな娘だ」


「ギルドの受付にいるウサギ獣人の娘だってさ」


「変な女を好きになるんだな。まあ、女なんてのは、金のある逞しい男に惚れるというのが相場となっている。イリノ、お前は体もそれなりになっているから、問題ないだろう」


何の根拠もないが、カーサのこの言葉は素直に嬉しかった。何だか、サーヤさんとのこれからが上手くいきそうな気がした。


「バカだねぇ、アンタ。そんなことで女が惚れると思ったら大間違いだよ」


「ほう。どんな男だったらいいんだ?」


「そりゃ……。一生懸命働く男さ。女を大事にする男さ」


「結局、金じゃねぇか」


「優しさも大事だってことだよ」


「優しさねぇ……。それで世の中を生きていければいいがな。まあ、女なんてみんな同じだ。貞淑な顔をしていても、一皮むけば、こんなもんだ」


カーサはそう言ってニヤリと笑う。そんな彼をマシェラは腕を組みながら呆れたような顔で眺めている。


「で、これからどうするんだ? その坊主が男になるまで頑張るのか?」


「……」


「お前だってその気になっていたところで、お預けを食らっているんだろう? 俺が相手になってやる。心配するな、金は払う。朝まで三人で楽しまないか?」


「いつものアタシなら喜んで乗るところだけれど、今日はなんだかそんな気持ちになれないんだよ。せっかくだけれど、また今度にしておくれよ」


「珍しいこともあるものだな。いつものお前だったら、喜んで参加して、朝になって二倍でも三倍でも金を要求するところなのにな。朝になっても、お前の分は払わねぇからな」


「いいよ。今夜はそのリシアを可愛がっておくれ。言っておくけれどこの娘はウチの看板娘なんだ。大事に、優しく扱いなよ」


「看板娘ぇ? どの口が言うのだ。おいお前、そろそろ休憩は終わりだ。続きをやるぞ。下手な芝居はもう終わりだ」


「あら、バレていたのかい? イヤな男だねぇ」


床に寝ていた女性がゆっくりと起き上がる。


「でも、悪くはなかったよ。アンタよかったよ」


「ここでよかったのならば、この後はもっと大変なことになるぞ」


「楽しみだねぇ」


そう言って女性は立ち上がると、カーサが座っているベッドに向かう。彼はもう一度酒を煽ると、ゆっくりと立ち上がった。逸物はいつの間にか回復していて、天を突いている。その彼の前に女性が膝まずいたところで、イリノは背を向けた。


「まあ、人を好きになるのは、悪いことじゃないわね」


彼はマシェラのその言葉を背中越しに聞いた。


ベッドの端に膝を抱えて座る。その様子を見てマシェラは黙って部屋を出ていった。再び女性の喘ぎ声が聞こえて来た。最初は先ほどと同じ甲高い声だったが、いつしかそれは低い、うめき声のようなものに変わっていた。


……まさか、サーヤさんも、ジークリフトとこんなことを?


思わず頭を左右に振った。そんなことはない。あの人に限って、そんなことをするはずはない。そう自分に言い聞かせる。


「早く町に戻らなきゃ。サーヤさんを、助けなきゃ」


そんなことを呟きながら、彼は目を閉じて天を仰ぐ。いつしか彼は、その態勢のまま眠りに落ちていた……。

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