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豪華な食事

翌日、イリノたちはルエネス大尉に率いられてサツタカ峠に向かった。途中休憩をはさみながら行軍し、峠に着いたのは夕暮れ時だった。


「ほら、あの山のふもとに黒い塊が見えるだろう。あれが、敵だ」


デルフ軍曹がそう言ってにっかりと笑う。敵は多くて一万程度と聞いていたが、峠の上から見るそれは、とても一万もの兵士がいるように見えなかった。それよりも、峠の上を埋め尽くす王国軍三万の規模に、イリノは息を呑んでいた。


……確かにこれは勝てそうだな。


そんなことを思いながら彼は背負っていたリュックを地面に置いた。


小隊長という役職についてはいるが、イリノらには仕事らしい仕事はなかった。唯一の仕事と言えば、ルエネス大尉やデルフ軍曹の指示を兵士たちに伝えるのみで、それだけ済めばあとは一般兵らと何ら変わらない扱いだった。とはいえ、兵士たちは上官の命令には絶対服従を叩き込まれていたようで、年若いイリノの命令にも唯々諾々として従ってくれた。


夜になると食事が配られたが、それは目を見張るほどに豪華なものだった。パンは食べ放題、パスタや肉料理も豊富に用意されている。こんなごちそうはほとんど経験がなかった。こんな豪華な食事であるなら、軍人としてこのまま王国軍で働くのも悪くはないなと思っていたそのとき、カーサとスウゴがやってきた。彼らは明らかに不満ありげな表情を浮かべていた。


「お前、よくそんなメシが食えるな」


「どうして?」


「どうしてって……お前は知らんのか」


「何を」


カーサは呆れたように首を振ると、まるで噛んで含めるような物言いで口を開いた。


「これは別名、突撃メシと言って、危険な任務をやらなきゃいけないときに振舞われるメシだ。俺たちの位置は敵の正面。後ろには前衛部隊と国王の親衛隊が控えている。つまり、俺たちは明日、戦いが始まったら、王国軍の盾にされるってことだ」


「えっ……。でも、俺たちも武器を持って……」


「バカ野郎。俺たちに襲い掛かってくるのは、敵の突撃隊だ。敵の最も勇猛で命知らずな野郎たちが突っ込んでくるんだ」


そう言うと、カーサはイリノの耳に顔を近づけてきた。


「昨日今日、訓練を受けただけのヤツらが対等に戦えるわけはねぇよ」


イリノは自分の顔から血の気が引いていくのがよくわかった。確かに、自分たちの前には、峠につながる道がある。すなわち敵は明日、この道を進んでくるのだ。


「じ、じゃあ、俺たちは、明日、しっ……」


「そうとも言い切れないぞ」


気が付くとルエネス大尉が立っていた。彼はニコニコと微笑みながら話しかけてきた。


「敵が我々に突撃をかけてくるのであれば、まさに我らの注文通りの展開だ」


「どっ、どういう……」


「敵が正面を攻撃してくれば、わが軍の右翼と左翼の部隊が敵に攻撃を加える。そうなれば我々は敵を包囲することができる。そうなれば、敵に勝ち目はない」


「そ……そうです、か」


「心配いらないよ。君たちが死なないように、明日は指揮を執るつもりだ」


大尉はそう言ってその場を去っていった。


「何を言っていやがる。敵を包囲する前に、俺たちは死んじまうじゃねぇか。勝ち戦となりゃ、報奨金が王都に残っている奴らよりは多くもらえると思ったが……。ツイてねぇな」


カーサはそう言って悪態をついた。選抜隊のあとの二人は、王都防衛に回されていた。カーサらは王都を出発する際に、お前らはツイてねぇなとからかってきたのだが、今となれば彼らは安全地帯にいて、助かるのだ。しかも、その防衛隊にはあの、ジークリフトも配置されていたのだ。


……何とかして生きて帰りたい。そして、もう一度、サーヤさんに会いたい。


彼はこの夜初めて真剣に神に祈った。

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