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志願してはみたけれど……

「バカか、お前ぇは!」


目を見開いて怒っているのは、マリノラだ。それはそうだよな、とイリノは頭を掻きながら申し訳なさそうな表情を浮かべている。


首根っこを掴まれて外に連れていかれ、そこで兵士の一人から説明を受けた。隣国のカイルラル王国が侵攻する構えを見せていること。そのために兵力を増強する必要があるので、緊急徴兵を行ったことを手短に説明されたのだった。


カイルラル王国が侵攻という言葉に、イリノは少なからず衝撃を受けていた。その国とは昔は争ったこともあるようだが、今は同盟国として協力関係にある国だった。その国がこの国に侵攻してくるなどとは、考えもしないことだった。


それはマリノラも同意見だった。彼は少なからずイリノよりも国の情勢に通じていた。


「大体、カイルラルの総兵力はどう頑張っても一万と言われているんだ。対して、ウチの国は、三万の兵力を動員できる。いま、緊急徴兵を行えば、少なくとも数千の兵士が集まるだろうぜ。一万対三万強の軍勢となりゃ、勝ち目のねぇ戦いだぁな。もし侵攻の話が本当なら、カイルラルの王様は英明だと言われていたが、とんだ見込み違いだ」


イリノも、マリノラにも、これまで数十年にわたって維持してきた和平を破り、戦いを起こす理由が見つからなかった。


ただ、イリノには引っかかることがあった。志願しておいて言うことではないが、待遇がとても良かったのだ。衣食住はすべて支給する。給金も支払う。いきなり戦いに出すということはなく、事前に訓練を受けるので、戦いの経験がなくてもよいというものだった。要は若くて動くことができれば誰でもよく、そんな者たちにもかなり高額な給金が支払われるのだ。


「やっぱり、何か、危険なニオイがするんだよな……」


サーヤさんにいいところを見せたいと、勢いだけで志願してしまったが、考えれば考える程、この徴兵はちょっとおかしいものだった。彼が父親から聞いていたのは、兵隊というのは戦いとなれば最前線に駆り出され、武器や防具も粗末なものを与えられ、その上、指揮官の小間使いもやらねばならない割の合わない仕事だというものだった。そこにきて、死ぬ確率は高く、兵隊だけにはなるものではないというものだった。


「まあ、でも、集合は今夜なんだろう?」


「ああ。必要最小限のものだけ持ってくるように言われたんだ」


「本当に王国の危機だったら、そんな悠長なことは言ってらんねぇだろうからな。有無を言わさず連れ去られるってもんだ。訓練もしてくれるってんなら、緊迫した状況ではなさそうだよな」


マリノラの言葉に、イリノはそれもそうだと妙に納得するのだった。


「差しあたって、店ぇ、どうすっかな」


「そうだな。俺が王都に行ってしまったら、店は……」


「いや、俺の方は大丈夫だ。最近、ご贔屓が増えてよ。かなり工面はいいんだ。問題はお前ぇの方だ。贔屓にしてもらっている料理屋もそうだが、なにより、ザザスの爺さんの方はどうするんだい? 工房の剣や武器の研ぎはどうするんだよ」


「それなんだよな……」


「とりあえず、ザザスの爺さんに報告した方がよくねぇかい?」


「そうだよな」


早速、イリノとマリノラの二人は、ザザスの屋敷に向かった……。

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